子どもの本音を引き出すには?「ひき算」で考える、子どもがつい話したくなるコミュニケーション術

「子どもと話すとき、もっと深く話を聞きたいのにうまくいかない」「なかなか気持ちを話してくれない」という相談をいただくことがあります。今回は、スクールカウンセラー、発達凸凹コンサルタントの立場から、「傾聴」の極意をお伝えします。
うまく話を聞き出せない
子どもといろんな話はするけれど、もっと本音を聞きたいと感じたことはありませんか。特に、学校でのトラブルや、学習のつまずきなど、ちょっとした問題が起きた時には、じっくり子どもの話を聞いて解決策を考えたいものですよね。
丁寧に話を聞こうと思って話しかけても、「わかんない」「覚えてない」「知らない」と返す子どもにガックリした…という経験がある方もいるのではないでしょうか。そこで今回は、子どもがつい話したくなるようなコミュニケーションのテクニックをお伝えします。
「話したい」と思える人になろう
コミュニケーションのテクニックと書きましたが、ただ言葉巧みに質問すればよいというわけではありません。初めて会う人に、自分の身の回りで起きたトラブルについてあれこれ質問されたと想像してみましょう。「この人に全てを話して大丈夫かな?」と少し心にストッパーがかかるのではないかと思います。
では、どんな人なら自分の心の内側を「話したい」と思えるでしょうか。例えば、
・信じられる人
・自分の話をしっかりと聞いてくれる人
などが思い浮かぶと思います。つまり、どんな聞き方をするかよりも、「誰が」聞くかという信頼関係が大切なのです。これは、子どもの話を聞くときにも同じように大切なポイントになります。
子どもと信頼を積み重ねるための「ひき算」
子どもに「話を聞いてもらいたい」と感じてもらえるような信頼関係を築くために意識したいことをお伝えします。何か特別なことを新たにするのではなく、これまでのコミュニケーションのなかから「ひき算」することを意識するとよいです。
1.「でも」は言わない
「でも」は、相手の言葉を否定する表現になります。否定から始まるコミュニケーションが続けば、子どもは「何を言っても否定されてしまう」と感じ、さらには「もう自分の気持ちや考えを伝えるのはやめよう」と思ってしまう可能性がありますよね。これでは、信頼関係を築く道から遠のいてしまいます。
ただし、「でも」という言葉は、子どもの言葉を否定するつもりがなくても使ってしまうことがありますよね。私も、新しい選択肢を提案したい時など、口癖のように使ってしまいます。相槌のように「でもさ、そうだよね〜」と使っているときもあるので、なかなか手強い癖なのかもしれません。
同じように、「でも」という言葉を使っていた方もいるのではないでしょうか。使いやすい言葉だからこそ、「絶対に使わない」くらいの意識を持てるとよいと思います。
もちろん「使ってはダメなんだ」「自分はこれまで間違った関わり方をしていた」と、これまでの自分を責める必要はありませんので、ご安心ください。
まずは「でも」に代わる表現を知ることから始めましょう。ビジネスの世界では、Yes+But話法というものがよく使われます。詳しく説明すると、
①まずはじめに「そうだよね(Yes)」と一旦受け止める。
②「でも(But)、〜〜」と、自分の伝えたいことを話す。
一旦肯定的に受け止め、そのあとで自分の主張を伝えるという方法ですが、これも「でも」が使われていますよね。では、この話法をもとに「でも(But)」を使わずに話を展開する場合、どうすれば良いかというと「ところで(By the way)」という言葉を用いる方法です。
他にも
・じゃあ
・それなら
・だとしたら
など、相手の言葉を否定しない表現がたくさんあるので、自分が使いやすい別の言葉を見つけて使ってみることをおすすめします。
2.アドバイスをしない
子どもから相談を受けたり、悩みを打ち明けられたとき、「〜〜したらいいよ」「〜〜してみたら?」など、ついアドバイスをしたくなりますよね。「こうすればうまくいく」という、問題解決への最短ルートを子どもに伝え、適切に導いてあげたいと思うのは親として当然の考えだと思いますが、アドバイスの与えすぎには注意が必要です。
なぜなら、子ども自身が考え決定する「自己決定感」は、とても大切な経験になるからです。もしアドバイスしたくなった時は、一度深呼吸し「子どもが成長するチャンス」と捉え直してみると良いかもしれません。
とはいえ、「わかんない」「どうしよう」など、子どもが自分で考え、決定することができない時もありますよね。そんな時は
・じゃあ、どうしたい?
・この方法ってどう思う?
と質問や選択肢を提示します。子どもの考えに伴走するようなイメージで、ヒントを手渡していけるとよいですね。
3.説教をしない
日常の中で子どもに説教することが必要な時もありますが、気持ちを聞く時間に「説教」を挟んでしまうのはNGです。「子どもにもっと話してもらいたい」時は、聞くことに集中します。
もし、注意したいことがあっても、子どもの話を遮って説教を始めてしまうと子どもは話す気持ちを失ってしまうので、「今は説教の時間じゃない」と切り分けて考えるとよいでしょう。
4.信頼を積み重ねるための「たし算」
次に、信頼関係を築くために、積極的に取り入れたいポイントを3つお伝えします。
スマイルをたす
メラビアンの法則という言葉があります。これは、コミュニケーションをとるとき、相手に影響を与える割合についての法則で
・見えるもの…55%
・聞こえること…38%
・言葉の内容…7%
の影響があるとされています。見えるもの(表情)と聞こえること(声色)を合わせたら9割になります。それに対して、「何を言ったか」という言葉の影響が1割以下と、とても少ないことに驚きますよね。
例えば、子どもの言葉に「そうなんだ」と相槌を打つときに、無表情で低い声で伝えるよりも、笑顔+明るい声で伝えた方が、子どもは「自分の話を聞いてくれている」と感じます。
つまり、子どもの話を聞くときも、「どんな言葉を伝えるか」という言葉のバリエーションよりも、笑顔や声色を意識するとよいでしょう。
ペーシングを徹底する
これは、相手とペースを合わせるコミュニケーションの方法です。話す速さや、間(無言)の時間など、人それぞれですよね。ゆっくり話す子や、なかなか言葉が見つかず黙ってしまう子の場合、「無言の時間」を埋めようとしなくてもよいです。
相手のペースや使う言葉を真似することで、心地よく話ができるようになり、信頼関係が築きやすくなりますよ。
不安の先出しをしておく
子どもが不安を口にする前に「〜〜な不安ってあるよね」と伝えます。親自身が、過去の経験や失敗談を話すのもよいでしょう。
・私もそうだったよ
・こういう人が多いよ(同じ不安を持っている人がいるよ)
と、伝えることで、子どもは「みんなも同じ不安を感じていたんだ」と知ることができ、「自分だけじゃないんだ」と、安心を抱くことにつながります。
この不安の先出しは、「不安を煽る」という意味ではなく、「不安があると思うけれど、それはおかしなことじゃないよ」と安心を手渡す気持ちで伝えるとよいですよ。
今回お伝えしたポイントを、少しずつ取り入れ、お子さんとのコミュニケーションに生かしてもらえたらうれしいです。
ナビゲーター
担当カテゴリー
子どもの健康・発達
公認心理師・スクールカウンセラー・発達凸凹支援コンサルタント 西木 めい
大学教育学部(特別教育専攻)卒業。小学校の通常学級の担任を8年、特別支援学校(小学部) の担任を5年、自治体の就学支援委員会(就学相談)の調査員、特別支援教育コーディネーターを経験。
「優秀な同僚の先生たちが、保護者と揉めて心を病んで、どんどん学校を辞めていく現状」を見て、専門職であるスクールカウンセラーになることを決意。現在は、小学校と中学校のスクールカウンセラーとして、親子や先生のカウンセリング、学校内の環境調整のコンサルティング、不登校や登校しぶりの再登校のサポートなどを行う。
一方で、SNSを通じた「発達凸凹支援コンサルタント」として、これまで2300人以上のママ・パパ、先生のお悩み解決コンサルを行いながら、発達凸凹っ子のママや、子どもの不登校・登校しぶりに悩むママに向けたオンライン講座、小学校の保護者100名以上が集まる子育て講演会などを開催。特別支援教育が「教育の一番の根本」であることを啓発している。2児の母。著書に『発達障害のある子を支える担任と保護者の連携ガイド 』(明治図書)がある。




























