学生と園児が関わって生まれるパワー、大阪大学が取り組むプロジェクトを取材

学生と園児が関わって生まれるパワー、大阪大学が取り組むプロジェクトを取材

こどもりびんぐは、2025年4月に開幕する大阪・関西万博「TEAM EXPO 2025」プログラム/共創パートナーです。同じく万博を盛り上げる企業・団体の取り組み等を取材し、ワクワクする情報をお届けしていきます。
今回は、大阪大学の「社会ソリューションイニシアティブ」(SSI)をクローズアップします。

■「社会ソリューションイニシアティブ」(SSI)とは?

大阪大学が2018年に立ち上げた未来社会を構想するシンクタンク。命を「まもる」「はぐくむ」「つなぐ」という3つの視点から、社会の現場の人々とともにさまざまな課題に取り組み、未来を構想することによって、2050年までに「命を大切にし、一人一人が輝く社会」を実現することを目指しています。

SSIで、大阪・関西万博の共創パートナーとして2021年に登録。現在、SDGsの理念や実践されている状況を確認し、SDGs後の目標を議論する「いのち会議」事業に取り組んでいます。大阪・関西万博が開催される2025年には、さまざまなステークホルダーと議論した結果を「いのち宣言」として世界に発信予定だそう。

お話をうかがったのは、SSIの基幹プロジェクトの一つを担当する大阪大学人間科学研究科教授・岡部美香さん。
やさしい笑顔がすてきな先生です。

「これ気になるよね」「そうだよね」という対話から社会のムーブメントをつくる

Q.先生が担当するプロジェクトは、「自らの生から公共の知を共創する次世代市民の育成に向けた教育の開発」と、とても難しい名称なのですが、いったいどういったプロジェクトなのでしょうか?

確かに難しく聞こえてしまいますよね(笑)。
例えば「学校のルールが今の時代に合っていないから、変えたほうがいいかも」などと思っていても、その最初の一声がなかなかだせない、それが今の日本の社会・文化だと思うんです。このプロジェクトは、そういった社会・文化からの脱却を目指しています。

「強く主張すると誰かが傷つくのでは」などと思ってしまいがちなんですよね。だから“強く主張する”のではなく、親しい仲間内で、「これ気になるよね」「そうだよね」「うん分かる」と“軽やかに相談してみる”ことから始め、社会を変えていく、またそういうふうにできる子どもたちを育てていくのが、このプロジェクトの目標です。

子どもたちの遊びは、ただ楽しいだけではなく、案外「これって居心地が悪いよね」という感覚が目立ちやすいもの。でもそこからこそ、自分たちの居心地のいいものを自分たちで作っていこうという発想が生まれます。例えば「走るのが苦手な子も一緒におにごっこを楽しめるようにするためには、どうしたらいいのかな」などです。 ただそこで「いいものを作るために頑張ろう!」と一人でガシガシ力むのではなく、隣の人と少しずつ相談しながら、みんなで居心地がよくなるように場をゆるやかに動かしていくイメージです。

誰かが突出して「代表」になるのではなく、みんなで手をつないでいる「輪」みたいな感覚。「こんなものもいいよね」「こうもいいよね」といった軽やかな対話の中で、“重たい責任を伴わずに、でも自分の意見がちょっと反映できた”そんな経験を積んだ子どもたちが育てばいいなと思っています。

学生が子どもに関わる、大人はあくまでそれをサポート

Q.具体的にはどういったことをされていますか?

実は幼稚園・保育園児および、小中高校生向けの教材を、大学生が企画中です。ついさっきも大阪府教育委員会に素案を提出してきたところ。まさに現在進行形で進めています(下記写真は学生たちが話し合っている様子)。この取り組みのポイントは「大人が子どもに関わる」のではなく、「学生が子どもに関わる」こと。大人はあくまでそれをサポートする立場です。子どもたちにとって大きいお兄さん、お姉さんはちょっと憧れの存在。子どもが子どもに与える影響力、パワーはすごいものがあるんですよね。

以前、高校生が幼稚園児に遊びを教えて一緒に遊ぶ企画を実施しました。その準備をみんながいろいろしている中で、「いつも通りで大丈夫」と特に準備をせずにいた子がいたんです。すると当日、幼稚園児たちは、その子が話していることが理解できないんですよね。その高校生にとっては、普段同級生と分かり合っている自分の言葉が、幼稚園児には伝わらない、幼稚園児には別の伝え方をしなければいけない、それを身をもって知るよい経験になったと思います。

今の「怒りスイッチ」はいくつ?「遊び」の中で自己表現を学ぶ

ほかにも、学生たちが、大阪ガスネットワーク株式会社事業基盤部コミュニティ企画事業部の方々とともに、大阪府内の福祉施設で小学生たちと遊ぶ活動も行っています。その活動は、お給料や単位などがもらえるわけでないのですが、子どもたちと遊んだ時間が充実感につながっているようで、みんな論文を書く合間を縫って楽しく参加してくれています。

必ず施設の先生に入ってもらうことにしているのですが、普段先生たちの前で見せない子どもの違った一面が見えることがあるようで、大人たちにとっても子どもたちとどうかかわればいいのかを知る機会になっているようです。

その中で人気の遊びの1つに、「みんなの怒りスイッチをさがせ!」(合同出版)というゲームがあります。「チョークをわざとキイキイ鳴らす」ことは「いかりスイッチ」ランクはいくつ?という質問に、 「5」という人もいれば、「3ぐらい」という人もいる。人によって感じ方が全然違うんですよね。まさに、「みんなちがって、みんないい。」です。「じゃあこんな場合はどう?」と、みんなで自分の意見を言い合って、すごく盛り上がるんです。
その遊びを繰り返すうちに、今まで自分の思いをなかなか上手に伝えられなかった子が、日常生活のシーンで「それは怒り5」と自分の気持ちを言えるようになったそうで、その話を聞いたときはとてもうれしかったですね。子どもたちは遊びの中で、自分の気持ちを表現するノウハウを学んでいるんです。大人にとっても、「ああ、この子にとってはそれは怒り5なんだ」と子どもについて一つ学ぶことができるんですよね。
大阪・関西万博についても、いくつも学生が主体の事業が立ち上がってきています。一緒に話し合いを始めると、4時間ぐらい集中して話していることも…。「万博まで」となると2025年、期限が迫っていますよね。実はSSIでは2025年のほか、2030年にも「いのち宣言」を発信する予定です。未来を担う学生たちと一緒に、2025年をひと区切りとし、それを生かして先の2030年、さらに2050年に向けて活動していきたいですね。
「社会ソリューションイニシアティブ」(SSI)についてはこちら

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