“早期教育=良い”は本当?モンテッソーリ教育の誤解と子どもの成長に大切なこと

“早期教育=良い”は本当?モンテッソーリ教育の誤解と子どもの成長に大切なこと

モンテッソーリやレッジョ・エミリアなど、子どもの自主性や創造性を育む『オルタナティブ教育』の第一人者である島村華子さんの連載。第8回は「早期教育」についてです。

「早ければ早いほど良い?」は、一度立ち止まって

最近は、小さい頃から英語やプログラミングに触れられるようにしているご家庭も多くなっています。子どもが自分から楽しんで取り組んでいるのであれば、もちろん無理に止める必要はありませんが、「早ければ早いほど良い」という考え方には一度立ち止まって考える余地があります。

英語は「環境をどう作るか」

たとえば、幼児期の英語教育については、早く始めた方がネイティブのように話せるというイメージが根強くあります。確かに、幼いほど発音が自然になじみやすい面はありますが、多くの研究からもわかっているように、家庭で日常的に英語を使う環境がない場合、幼児期に学んでも忘れてしまいやすく、むしろ年齢が高い方が短期間で効率よく学べることもあります。これは、年齢が上がるほど母語の知識や論理的な理解力を活かして学習できるからです。

つまり、早く始めること以上に、自然に英語に触れられる環境をどう作るか、そして母国語がきちんと育っているかが大切なのです。習い事だけでネイティブのようになるのは簡単ではないからこそ、また子どもがもう少し大きくなってからも十分語学習得の可能性はあるので、「とにかく早く始めれば良い」という考え方だけにとらわれないことが大切です。

また、最新の国際的な研究や各国の幼児教育プログラムの分析でも、同じような特徴が明らかになっています。早期に教育を始めることには、恵まれない家庭の子どもの学力格差を縮小する効果がある一方で、すでに家庭で十分な知的刺激を得ている比較的恵まれた家庭環境にある子どもにとっては、早期教育を増やしても大幅な学力向上は見られないことがわかっています。むしろ、学習効果には限界があり、場合によっては習い事が負担となり、かえってストレスを生むことさえあります。

「学ぶ意欲」や「やってみたい気持ち」を育てる

子どもが自分の興味で楽しむ分には良いのですが、習い事が増えすぎてしまうと、自由に遊び、お友だちと関わり、自分で考える時間が奪われてしまいます。本来、幼児期の遊びの中の学びは、将来の柔軟な思考力や人間関係の土台になります。知識を覚えること自体は、大きくなってからでも十分に間に合いますが、時間に縛られずに思い切り遊べる子ども時代は、二度と戻ってはきません。

さらに、子どもの脳の発達を考えると、知識だけでなく、「学ぶ意欲」や「やってみたい気持ち」を育てることがとても大切です。小さい頃から詰め込みすぎたり、「やらされ感」が強いと、学ぶこと自体に疲れが生まれ、せっかくの好奇心を失ってしまうこともあります。幼児期にたっぷり遊び、失敗を繰り返す経験こそが、後に自分で考え、問題を解決する力の基盤になるのです。つまり、早いうちから何かを教えることだけにこだわるのではなく、自由に遊び、試し、考えられる時間を大切にすることが、子どもの将来の学びにつながります。

モンテッソーリの誤解

こうした「早期教育=勉強の先取り」という考え方の中で、特に誤解されやすいのがモンテッソーリ教育です。「頭の良い子を育てるお受験教育」というイメージを持たれることも多いですが、実際は全く逆です。

モンテッソーリ教育の本質は、子どもの心と知性をバランス良く育てることです。教室では、年齢の違う子どもたちが一緒に過ごし、自分でやりたい活動を選び、繰り返し集中して取り組む中で、自立心と責任感を身につけます。

大切なのは、自由と責任の両立です。好きなことを好きなだけするだけではなく、「自分で選んだことには責任を持つ」という姿勢を、日常生活の中で自然と身につけていきます。こうした環境の中で、子どもは自分で考え、試し、学ぶ力を無理なく育んでいきます。この積み重ねが、将来の学力だけでなく、社会性や自己決定力の土台にもつながります。つまり、モンテッソーリ教育は、知識を早期に詰め込む特別な方法ではなく、子どもが自分で考え、やってみようとする気持ちを自然に育てていくための環境づくりの方法なのです。

のびのびと成長できる環境を整えよう

早期教育もモンテッソーリ教育も、本当に大切なのは、今の子どもが無理なく、のびのびと成長できる環境を整えることです。子どもは本来、遊びや日常の中で、自分で学び取る力を持っています。大人の役割は、それを急いで引き出すことではなく、十分に遊べる時間や、好きなことに思いきり夢中になれる時間を保証することです。情報があふれる時代だからこそ、「何を学ばせるか」だけにとらわれず、「どんなふうに毎日を過ごすか」「今この時期にしかない一番大切なものは何か」を、子どもに寄り添いながら一緒に考えていきたいものです。

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担当カテゴリー

学び・遊び・教育

児童発達学研究者 島村華子

オックスフォード大学修士・博士課程修了(児童発達学)。日本人で唯一の、モンテッソーリ&レッジョ・エミリア教育の二つを司る研究者。現在はカナダの大学にて幼児教育の教員養成に関わりながら、日本でも教育・子育てについて、親や教育者に寄り添ったアドバイスを発信している。著書『アクティブリスニングでかなえる最高の子育て(主婦の友社)』『自分でできる子に育つ ほめ方 叱り方(ディスカヴァー・トゥエンティワン)』『親子でできる モンテッソーリ教育とマインドフルネス(創元社)』

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