大阪・関西万博テーマ事業プロデューサー・中島さち子さんインタビュー(前編)

大阪・関西万博テーマ事業プロデューサー・中島さち子さんインタビュー(前編)

ジャズピアニストで、STEAM教育の第一人者として活躍する中島さち子さん。2020年に、2025年開催の大阪・関西万博のパビリオンや企画・運営を担うテーマ事業プロデューサーの一人として選ばれました。今回、中島さんへ独占インタビュー。前編、後編の2回シリーズで紹介。前編では、中島さんがプロデュースするパビリオンについて、気になるあれこれを聞いてきました!

PROFILE 中島さち子さん

音楽家・数学研究者・STEAM 教育者。株式会社steAm 代表取締役、一般社団法人steAmBAND代表理事、大阪・関西万博テーマ事業プロデューサー、内閣府STEM Girls Ambassador、東京大学大学院数理科学研究科特任研究員。高校2年の時に、国際数学オリンピックで金メダリストを獲得。音楽数学教育と共にアート&テクノロジーの研究も進める

※「STEAM」とは…21世紀型の新しい遊び・学び。Science(科学)、Technology(技術)、Engineering(工学・ものづくり)、Art/Arts(アート・リベラルアーツ)、Mathematics(数学)などを横断する創造的・実践的・主体的な学び方、生き方のこと

誰もが楽しめる「小さくて弱くて少ないもののための万博」に

今回、大阪・関西万博会場でプロデュースを担当する「いのちの遊び場 クラゲ館」。クラゲをモチーフにした、インパクトあふれるパビリオンを今まさに構想中です。万博のように、世界中の人が集まるイベントがあるということはとても意味があります。私たちが常に意識しているのは、大企業のような「強くて大きくて多いもののための万博」ではなく、誰もが楽しめる「小さくて弱くて少ないもののための万博にしたい」ということ。

1970年に開催された大阪・万博は、約6000万人の人が来場し、世界的にもかなり特徴的で、万博が一種のピークを迎えた時だと思います。私も、岡本太郎さんの「太陽の塔」を初めて見た時は、とても衝撃的でした。

科学技術がすごいと言われている中、思想や反逆的なエネルギーを発信していて、それこそが万博なんだと、万博は「民の博」であると実感したんです。すごい人がすごいものを発信する、というより「生きとし生けるものがみんなすごい」ということを表現しようとした象徴が、まさに「太陽の塔」だったと思います。

今回、1970年に開催した万博から55年後の2025年に、また大阪で万博が開催されます。世界は混迷の時期で、コロナがあった直後。しかも、今まさに世の中で戦争も起こっています。自分が「太陽の塔」に感激したように、ここで何か、55年前の岡本太郎さんを超えるぐらいのエネルギーで、新しい世界観のようなものを見せられたら、すごく意味があるのではないかと考えています。

大阪・関西万博で中島さん担当のパビリオンの完成図=steAm Inc. & Tetsuo Kobori Architects All Rights Reserved

0歳の赤ちゃん、101歳のおじいちゃん、おばあちゃんにも楽しんでもらいたい

万博のパビリオン「いのちの遊び場 クラゲ館」では、テーマを「いのちを高める」=「0~120歳のこどもたちの遊び・学び・芸術・スポーツを通じた、いのちが高まる共創の場の創出」と掲げています。皆さんから、0~12歳の間違いですかってよく言われるのですが(笑)、0歳の赤ちゃん、101歳のおじいちゃん、おばあちゃん、どんな人にも思いっきり楽しんでもらいたいと思い表現しました。なぜ120歳なのか?それは、120歳であれば人類全体を網羅しているかな~と、そんな思いを込めて“0~120歳”としています。

では、なぜ0~120歳の“子どもたち”なのか? 以前アメリカに行ったとき、子どもに対して「あなたはどう思う?」など、子どもを一人の人間として扱い、対等に話すことが多く、とてもいいなと思いました。日本では、まだどうしても大人と子どもを区別したり、大人は子どものために…と思っていろいろとやってしまうことも多いと思います。私からすれば、そんな大人の方が今の世の中、結構つらい人が多いのではないかなと感じています。世の中の変化の激しさに疲弊して、苦しんでいる人もたくさんいるんじゃないかと、そちらのほうが心配です。

2歳児だからとか、主婦だからとか、全てをきれいにセグメントするのではなく、もっと多様な価値観を受け入れるようになったらいい。各々の価値を大切にして、時に混じり合うことも必要なんじゃないかと考えています。今回の「いのちの遊び場 クラゲ館」は、大人も子どもも関係なく、みんながワクワクしながら、楽しんでもらえる場にしたいですね。

今回モチーフとなる「クラゲ」のポーズ

クラゲのような「ゆらぎある遊び」こそが大事

2020年、大阪・関西万博のプロデューサーに任命されてすぐに、私が大好きな建築家・小堀哲夫さんにパビリオンの建築をお願いしました。小堀さんと言えば、日本の建築家では史上初、2度の日本建築大賞を受賞するなど数々の受賞経験があり、建物を作るのではなく「場をつくる」のが得意。今回お声掛けしたら、なんと2025年の大阪・関西万博までまだ5年もあるのに、「早速会議をしよう!」と意気投合。そこで、2020年~2021年にかけて、毎週のように小堀事務所に多様な方々が集まって通称「闇鍋会議(!)」を開催しました。

そんな中、今回のパビリオンのテーマ「いのちを高める」にとって大事なものは何なんだろうとなったとき、「ゆらぎのある遊び」が必要なのではないかという意見が出てきました。「生きていて、必ずしも説明できるものばかりじゃない。説明できない何かを表現するには…」といろいろと考えるうちに、半透明でぶかぶかとゆらぎのある動きを象徴する「クラゲ」というキーワードが浮かんできたのです。

遊びといっても、テーマパークで遊ぶなど与えられた遊びではない。砂場で遊ぶとか、森で何かするとか、自分たちで創造し、生まれては消え、自分で生成していくもの、そんな「ゆらぎのある遊び」が大事。おっちょこちょいの人がいて、ちょっと休んでいる人がいてもいい。ゆらぎの場があるからこそ、困ったときに生きながらえる。まさに「ゆらぎのある遊び」こそが、創造性やいのちにとって大事なんだと思います。

パビリオン「いのちの遊び場 クラゲ館」の外観イメージ=steAm Inc. & Tetsuo Kobori Architects All Rights Reserved[/caption]

展示には、子どもたちが大好きな「スライム」も現れるかも!?

今回のパビリオン「いのちの遊び場 クラゲ館」は、まるでクラゲのような屋根がかかり、半屋外の公園のようなスペース(上記パース参照)。テーマは「いのち高まる五感の旅」です。パビリオンの最後の方では、「クラゲシアター」が登場。国内外の祭りを中心に演奏家、そしてそこにやってきた約30人の来場者が双方向に協奏する…、万博に参加したからこそ実現した「一期一会」から、その場で生まれた「三位一体」を体感できます。来場者が、「自分も参加できた!」と思ってもらえるパビリオンになったらうれしいですね。

また、パビリオン内では、「スライム楽器」も現れるかも…。子どもたちにとって五感の一つ「触覚」が特に養われる体験をリアルにしてもらいたい!と試行錯誤しています。

私が前回の大阪万博で岡本太郎さんが作った「太陽の塔」を見てインパクトを受けたように、2025年大阪・関西万博に参加して、さまざまな場でいろんな人に出会い、五感を研ぎ澄ませることで、あふれるいのち(創造性)を体感してほしいですね。

学び・遊び・教育:新着記事

電子書籍

幼稚園児とママ・パパの情報誌

親子の保育園生活を応援する情報誌