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年長児が「こども会議」で行事を決定!園児による「主体的な保育」を実践する太陽の子保育園

年長児が「こども会議」で行事を決定!園児による「主体的な保育」を実践する太陽の子保育園

保育園や幼稚園を取材して、園の理念や特色を紹介するコラム「園のこころ」。今回は、埼玉県戸田市にある「太陽の子下戸田保育園」。園長の森明子さんと、園を運営するHITOWAキッズライフグループのキッズライフラボ乳幼児教育研究所・原園早苗さんにお話を聞きました。

子どもたちのつぶやきを広げてお寿司屋さんの見学につなげる

――はじめに、「太陽の子」の理念について教えてください。

原園さん:「太陽の子保育園」は、首都圏を中心に107園の系列保育施設を展開しています。(2025年4月時点)私たちの理念である「つながり保育」は、子どもたちとのつながり、保護者とのつながり、地域とのつながり、保育者同士のつながりを大切にしています。そうして育った子どもたちは、未来とつながります。いつか大人になったとき、「保育園でたくさんのものをもらったな」と思ってもらえるような場を作りたいですね。

そのために、私たちが大切にしているのが「子どもたち主体の保育」です。こども家庭庁の「はじめの100か月の育ちビジョン」でも、「こどもの権利と尊厳を守る」ことが提唱されています。子どもたちが保育園で大事にされて、ちゃんと意見を聞いてもらうことで、「自分たちが生きている世界はすてきなところだな」と、次の世代にバトンを渡してくれたらいいなと思っています。

――「子どもたち主体の保育」というのは、具体的にはどのようなことをするのですか。

森さん:保育者主導でみんなが同じことをする「一斉保育」と違って、子どもたちの意見やちょっとしたつぶやきを発展させていくのが「主体的な保育」です。

たとえば、子どもたちが「わたし、きのうお寿司を食べにいったんだ」「どんなお寿司食べたの?」とお寿司の話で盛り上がっていたら、保育者はその中に入っていって子どもたちの声を聞くんです。そのうち、「LaQ(ブロック玩具)でお寿司作らない?」とお寿司づくりが始まって、それを見ていた子たちが粘土でお寿司を作り出したり、絵を描き始めたり、できあがったお寿司でお寿司屋さんごっこを始めたり。

そうしたら保育者は、「何があったらもっと楽しくなる?」と声をかけて、「のれん!」「洋服!」「メニュー表もあったらいいね」という子どもたちの声を引き出していきます。子どもたちのつぶやきを広げていって、お寿司の絵本を買ったり、親子で手巻き寿司を作るイベントを開催したり。「本物のお寿司屋さんに行ってみようか?」とお寿司屋さんにアポを入れて、みんなで見学させてもらったんですよ。

お寿司屋さんのバックヤードを見せてもらったのは私たちも初めてで、「先生も見たい!」と保育者も楽しんでいました。私が大事にしているのは、子どもたち主体はもちろん、大人主体でもあるということです。保育者自身が「楽しい」と思えることなら、子どもたちも楽しめると思うんです。

実際に八百屋へ行って見学をさせてもらったことも
「太陽の子下戸田保育園」園長の森明子さん

「読み聞かせ」ではなくて「読み合い」絵本を通して共通の体験を

――それは楽しそうですね。他にはどのような取り組みをされていますか。

原園さん:私たちは絵本を取り入れた保育を大切にしていますが、「読み聞かせ」ではなく「絵本の読み合い」と言っています。子どもたちが「もう1回読んで!」と言うページに何度も戻って読んだり、絵本で見たものを外へ探しに行ったり。絵本の世界を保育者と子どもたちで一緒に楽しむのが「読み合い」です。

子どもたちのなかには、おうちでたくさんの本を読んでもらっている子もいれば、家に1冊も本がない子もいますけれど、保育園ではどの子も絵本を通して共通の体験をすることができます。

森さん:子どもたちが何回も「読んで」という大好きな絵本が見つかったら、私たちはその絵本の世界にどっぷりはまれるような準備をします。行事のテーマにして、絵本をもとにしたゲームをしたり、発表会で劇をやったり。大好きな絵本だから、子どもたちはセリフを全部覚えているし、乗ってきてくれるから盛り上がるんですよね。

原囿さん:栄養士や調理師もチーム保育の一員なので、給食に絵本をテーマにした献立を取り入れることもあります。季節の料理や郷土料理、世界の料理が出ることもあります。保育園は、生活の場でもあります。子どもたちは食べたものでできていますし、食もやはり家庭差が大きいので、いろいろな食体験をさせてあげたいですね。

子どもたちの「やってみたい」をかなえることが考える力をつけることにつながる

―― 一斉保育から主体的な保育へ転換するのは、簡単なことではないと思いますが、どのように乗り越えましたか。

森さん:私は、13年前に開園したときからここにいるのですが、「主体的な保育が定着してきたな」と実感できるようになったのは、ここ数年のことです。私自身も一斉保育で育っていますし、保育者としてずっと一斉保育をやってきたので、最初は「これは子どもたち主体なのか、それともただの放任なのか」という葛藤がありました。

迷ったときは保育者同士で「これはどうなんだろうね」「どう思う?」と話し合って、研修を受けたり他園の事例を参考にしたりしながら、自分たちの園でできることをやってきました。コミュニケーションを大事にして、仲はいいけれど言うべきことはお互いにちゃんと言える関係を作ってきたつもりです。あとは、「失敗してもいいよ」というスタンスで! やってみて、うまくいかなかったら「これはうまくいかないことを発見できた。よし、次へ行こう!」って。

今は、保育者自身も楽しみながら、子どもたちのやりたいこと、やってみたいことをかなえてあげられていると思います。

――主体的な保育を取り入れたことで、どのような変化がありましたか。

一番の変化は子どもたちの「やりたい」「やってみたい」がかなうことにより意欲的に取り組み、自ら考える力が身についてきたことです。保育室も自分で遊びを選べるようコーナーを作っているので、じっくりと遊び込む中で、集中力や想像力、探究心等も自然と身についているように感じます。遊びの続きを楽しみに保育園に来る姿もよく見るようになりました。

当初は保護者から、「小学校に入ったら一斉授業になりますよね…」と不安の声を聞くことがありましたけれど、私たちの保育の考え方をお伝えしていくうちに理解してもらえました。今は、子どもたちの様子を見て「楽しそうですね」と言ってもらえます。

原園さん:私たちの園では、どの保育者も子どもたちの鼻水を拭くとき、「おはなをふいてもいいですか」ときいて、「うん、いいよ」と言われてから拭きます。何も言わずにいきなり拭くと子どもたちはすごく嫌がりますけれど、ちゃんと確認してもらえば「自分のことをちゃんと見てくれている」と受け取れるんです。今はみんな、鼻水が出たら自分から見せにきますよ。

年長さんは会社の一員「こども会議」で園のイベント決定も

――小さいうちから「自分の意見を尊重してもらえる」と思えるのですね。

原園さん:私たちは、子どもたちを一人前に扱うことを心がけています。園長も職員も子どもたちも、みんなが保育園をつくっている大事なひとりです。

森さん:夏祭りや運動会のような、園の行事の準備も子どもたちが決めるんです。年長さんが集まって「こども会議」をして、「どのクラスに何をしてもらおうか」「何歳児にはどんなゲームがいいだろうか」と意見を出し合います。意見がぶつかったり、譲ったり我慢したりするのも、いい経験になります。

「こども会議」の様子

原園さん:年長さんには、会社の「こども事業部」に入社して園のお仕事をしてもらいます。Zoomで入社式もしたんですよ。子どもたちは、画面を通して全国にいる同級生に会って、「こんなにいっぱい友達がいるんだ!」と驚いていました。

掃除やお手伝いも、仕事として意欲的にがんばってくれますし、報告会もします。小学生、中学生になってからも、「5歳のとき、自分たちは園の中心だった。自分たちならできる」と思えるような経験をして、4歳児にバトンを渡して卒園してほしいと思っています。

入社式の様子

疲れたときは親子でハグをして充電「自分時間」も大切に

――最後に、子育て中のママ、パパにメッセージをお願いします。

森さん:大人も子どもも、失敗をしてもいいと思います。私自身も3人の子どもたちがいて、たくさん失敗をしてきました。誰も、正しくて完璧な親にはなれないですよね。ちょっと抜けていても親の心にゆとりがあって、「ごめん、失敗しちゃった」と言えるくらいの関係が、親も子もお互いにラクな気がします。

仕事をしながら育児も家事もやっていると、特に子どもたちが小さいうちは自分の時間がなくなりがちですが、忙しいときや疲れたときほど自分時間をつくるのは大事だと思います。子育て中のスタッフの1人は、夜は子どもたちと一緒に寝落ちしてしまうから、朝4時に起きて好きなドラマを見ているそうです。私はサウナにハマっています。

あとは、疲れたときは子どもたちに「充電させて」と言ってハグをしてもらいます。下の子は小学4年生の男子で、外ではもう手をつないでくれないんですけれど(笑)。自分も疲れたときは「充電させてほしい」と言ってきます。上の娘は、1歳になる自分の子に充電してもらっています。そうやってお互いに充電し合いながら、また次の日がんばれたらいいですよね。

【太陽の子下戸田保育園】
所在地:〒335-0011 埼玉県戸田市下戸田2-19-18
アクセス:JR戸田公園駅徒歩17分ほか
TEL:048-434-5665(月曜~金曜 7時〜20時00分、土曜7時30分~18時30分)
運営:HITOWA キッズライフ株式会社
定員数:75名(合計)

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取材・文/林優子

ライター

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こどもりびんぐ &あんふぁん編集部

「子育ての迷いに、頼れるコンパスを。」子育て中のママ・パパの気持ちを楽にする記事を発信中。未就学児〜小学生を子育て中の現役ママ・パパも多い編集部です。

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