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「うちの子、主体性ある?」の前に知っておきたい、園と小学校では異なる「主体性」の正体

「うちの子、主体性ある?」の前に知っておきたい、園と小学校では異なる「主体性」の正体

最近、SNSや子育て関連の記事で「主体性」という言葉を目にするたび、「うちの子は主体性があるかしら?」と不安になったり、焦ったりすることはありませんか? その戸惑いには、理由があります。この記事では、子育て中のパパ・ママの混乱を招く「主体性」の正体をひも解き、乳幼児期に本当に大切にすべきことを、認定こども園等を複数運営する近藤敏矢さんがひもときます。

最近、SNSや子育ての記事で「主体性」という言葉を本当によく見かけますよね。「主体性を育てる子育て」や「主体性が伸びる習い事」といったキラキラした情報が流れてくるたびに、「うちの子はどうかしら?」と不安になったり、「みんな、自分で決める子に育てているみたいで焦る……」と感じたりすることもあるかもしれません。
 
実は、多くのパパやママが抱くその戸惑いには、はっきりとした理由があります。それは、私たちが普段耳にする「主体性」という言葉が、実は年齢によって全く別の意味で使われているからなのです。まずはその違いをゆっくりとほぐしていきましょう。

小学校以降と保育園・幼稚園で違う「主体性」の正体

そもそも「主体性」という言葉が教育の現場で重視されるようになったのは、1998年の学習指導要領の改訂がきっかけです。「生きる力」を育むために、「主体的に学習に取り組む態度」が評価のポイントとして位置づけられました。一方で、保育園などの乳幼児の世界でこの言葉が明確に使われるようになったのは、2008年のことでした。
 
ここで保護者の方が迷ってしまう最大のポイントは、この「主体性」という言葉が、小学校以降と乳幼児期では全く違う意味で扱われているということです。
 
小学校以降の教育では、「主体的・対話的で深い学び」という言葉が大切にされています。これは、かつての「詰め込み型」や「受け身」の学習から卒業し、子どもが自ら動き、考え、判断して学ぶ姿勢を育てようという流れから生まれました。この段階での「主体性」は、しばしば「自主性」という言葉と対比して語られます。
 
例えば「自主性」とは、あらかじめ決められた枠組みやルールの中で、自分の意思で動くことを指します。これに対して「主体性」は、自分自身で判断の基準を作り、自分の責任で物事を決めていくことを意味しています。
 
実際、中学校などでは、生徒が自分で担任の先生を選んだり、自分たちで校則や新しい制服を決めたりといった、本当の意味で生徒が考え、責任を持つ実践教育が行われています。
しかし、こうした「責任」や「判断」を伴う主体性は、中学生や高校生のように考える力や言葉にする力が育ってきた時期だからこそ成り立つものです。
 
まだ小さなお子さんに「自分の判断基準で責任を持って行動して」と言っても、それは無理な話ですよね。この「学校での主体性」をそのまま乳幼児期のお子さんに求めてしまうことが、パパやママの混乱の原因になっているのです。

乳幼児期の主体性は「ワクワクする気持ちの芽」

では、保育園などで大切にされている「乳幼児期の主体性」とは何でしょうか。それは学校での厳しい意味とは全く異なり、「あ、これやってみたい!」「もっと見てみたい!」「触ってみたい!」という、自分から動きたくなる気持ちの芽そのもののことを指します。
 
国の指針でも、主体性は「身近な環境に好奇心を持って関わり、発見を楽しもうとする力」として示されています。そこには、責任を取ることも高度な判断をすることも求められていません。
 
「そもそも、子どもの主体性は他者である大人が『伸ばす』ことが可能なのでしょうか」。この視点はとても大切で、主体性は誰かに教え込まれる「成果」ではなく、安心できる環境の中で「自然と育つ力」なのです。このことを知るだけで、「どう育てればいいの?」という不安が少しずつほどけていくのではないでしょうか。

ママとパパにできるのは2つ。「安心できる環境づくり」と「いっしょに楽しむ」こと

お子さんの主体性のために、大人ができることは大きく分けて2つだけです。一つ目は、「安心できる空気」をつくることです。

乳幼児期のお子さんにとって何よりも大切なのは、たっぷりとした愛情の中で安心して過ごせることです。この安心感があるからこそ、「ちょっとやってみようかな」という心の動きが生まれます。たくさん声をかけ、ハグをして、いっぱいの笑顔を向けてあげてください。

ただし、ずっと大人の視線が注がれ、「あれはどう?」「楽しい?」と問いかけ続けられると、子どもは窮屈になってしまいます。安心できる自由な空気の中で、困ったときだけそっと支えてくれる、そんな存在が主体性の土台を作ります。そして、自分を育ててくれる人自身が、楽しく過ごしていることも大切です。
 
二つ目は、「親もいっしょに楽しむ」ことです。これはシンプルですが、実はとても重要なことです。「何をやらせれば主体性が育つか」と難しく考えるのではなく、いっしょにその時間を楽しむことが一番のポイントになります。子どもは大人の気持ちをすぐに見抜きます。パパやママが楽しそうにしていれば、それだけで子どもの心は自然と開いていくのです。

習い事の種類や数よりも、心の動きを大切に

最近は「体験の格差」という言葉も耳にしますが、大切なのは習い事の種類や数ではありません。体験を通して「楽しい!」「これは好きじゃない」「ちょっと大変だな」といった気持ちの揺れや発見を積み重ねることこそが、この時期の大きな成長になります。嫌がるときはやめてもいいですし、少し背中を押して続けてみるのも一つの形です。どちらが正解というわけではありません。
 
私の子どもの例をお話しすると、幼い頃からスイミングに通わせていましたが、なかなか級が上がらず、後から入ったお友達に次々と追い抜かれてしまいました。それでも本人は辞めずに通い続け、今では水泳が人生の大切な軸になっています。高校では水泳部の部長を務め、就職を控えた今でも大会に出場し続けています。
 
記録が速いか遅いかということよりも、一つのスポーツがあの子の生活を豊かにし、勉強や仕事へのやりがいにもつながっています。こうした育ち方も、立派な「その子らしい主体性」の形なのです。

他の子と比べなくていい、焦らなくていい

最後にお伝えしたいのは、主体性は親が頑張って育てる「成果」ではないということです。安心できる環境の中で、子どもが自分のペースで「やってみたい」という芽を伸ばしていくプロセスそのものが大切なのです。
 
SNSや周りの情報に振り回される必要はありませんし、他の子と比べる必要もありません。ママやパパができるのは、安心できる空気をつくり、体験をいっしょに楽しみ、困ったときにそっと支えること。それだけで、主体性の芽は十分に育っていきます。
 
どうか、今のままの関わりを大切にしてください。あなたのお子さんは、もうすでに自分らしい主体性の道を歩み始めていますよ。

この記事を書いたのは

近藤 敏矢さんの画像

社会福祉法人みなみ福祉会 理事長

近藤 敏矢さん

名古屋大学大学院情報工学専攻修士課程修了ののちNTTに入社し、研究者として従事。その後、実家である保育園を継ぐことを決意。1999年に社会福祉法人みなみ福祉会に入職し、2004年に笠寺幼児園園長に就任。2019年、同法人理事長就任。保育園から認定こども園へ移行して複数の施設を運営する方針に舵を切り、4年間で新たに5施設を展開。ペーパーレス化、経理システムの独自開発など業務のデジタル化に取り組む一方、経営コンサルタントを活用して法人の経営拡大に注力するなど積極的な改革を推し進めてきた。現在は、保育等の福祉がなくても誰も困らない地域づくりを目指して尽力している。著書に『ここが変だよ、保育園』(幻冬舎)、『親が知らない保育園のこと』(游藝舎)がある。

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