「女の子は算数が苦手」はホント?幼少期から親が意識すべきこと【前編】
ある女の子の母親から、こんな話を聞きました。「娘が小学3年生になり、算数は苦手だと言い始めました。国語や社会が得意だと言うのですが、テストの点数は各科目でそれほど差はありません。女の子の算数への苦手意識はどこからくるのか不思議です」。
一般的に、女の子は算数が苦手だとよく言われるのはなぜでしょうか? 今回は、その理由とともに、算数への苦手意識をもたないために幼少期からできること、親が意識することについて、話題のタブレット教材「RISU算数」を展開する RISU Japan株式会社の代表取締役 今木智隆さんにお話を聞きました。
女の子は本当に「算数が苦手」なのか?
そもそも、女の子は本当に「算数が苦手」なのでしょうか? これまでRISU算数で学習した子ども達のデータを見ると、男の子のほうが算数が得意だという結果は見られません。男の子も女の子も、総合的な点数に差は見られないのです。女の子は算数が苦手というのは、思い込みであるというのがデータから得られる結論です。
得意な分野は男女で違う傾向が見られる
算数全体の得意・不得意に男女差はありませんが、より細かくデータを見ていくと男女で得意な分野に違いがあることが分かりました。男の子は、図形分野が得意な傾向にあるようです。図形分野の男の子の得点を100とすると、女の子の得点は85%ほどに留まりました。
一方で女の子は、丁寧に解くような問題が得意な傾向にあります。例えば、桁が大きな数の引き算、小数や分数の細かい計算、素因数分解などの問題は、女の子の正答率が男の子をやや上回っています。
得意分野の男女差はなぜ生まれるのか?
男の子が図形分野に強いのは、積み木やレゴブロックなど、小さい頃から図形(立体)を扱うおもちゃで遊び慣れていることがあると思われます。トミカやプラレールが好きな子も多いですが、作った街を俯瞰的に眺めたり、ときには地面と同じ視点に顔を下げてみたり、車を手にとっていろんな角度から見てみたりと、立体をあちこちから観察する遊びが得意ですよね。
一方で女の子は、じっくり考えることが得意な子が多い印象です。男の子は問題を速く解こうとする傾向にあり、丁寧に解く必要がある問題でミスが起きやすくなります。じっくり丁寧に問題を解く子を見ていると、その子の保護者は『問題が分からないのかしら』『やっぱり算数は苦手なのかしら』と心配になるかもしれません。ですが実際は、解き方が丁寧なだけで点数はしっかり取れているという場合もたくさんあります。
年齢が上がるにつれて理系志望の女の子が減るのはなぜ?
年齢が上がるにつれて理系志望の女の子が減っていくのは、能力による得意・不得意によって算数(数学)から離れていくというよりも、外的な要因が大きいと言われています。
外的な要因とは、大人の世代がもっている「理系は男子」という先入観による影響です。子どもに関わる親や先生、祖父母などが、無意識にある先入観で「理系は男子」を印象づける言葉かけをしていたり、友達同士の会話から「理系は男の子が進むのが普通」と子ども自身が思い込むこともあります。
身近に理系の女性がいると理系を選ぶ女の子が増える
外的要因が大きいことを示す例として、次のようなデータもあります。
平成29年度に行なわれた内閣府の委託調査では、母親の最終学歴が理系か文系かが、女子学生の進路にも影響を与えているという結果が示されました。
最終学歴が理系の母親をもつ女子学生の進路は、「理系+どちらかといえば理系」が、文系に比べて20%も多かったのです。また、中学校、高校で理系科目を学んだ際に、すべて男性教員が教えた場合と、女性教員がいた場合では、女性教員に教わった経験がある女子学生のほうが、11%多く理系を選択している結果も示されました。
このように、理系=男子という先入観がなくなるようなロールモデルが女の子の身近にあるほうが、理系を選択することが増えるのです。もし身近に理系女性のロールモデルがいなくても、保護者が理系=男子という先入観を捨てて、「女の子が理系を選択するのは珍しいことではないのだ」という意識で話を聞く姿勢が大切です。
参考サイト:「女子生徒等の理工系進路選択支援に向けた生徒等の意識に関する調査研究」調査報告書(内閣府委託調査)
女の子がいる家庭で幼少期からできる関わり方とは?
女の子の年齢が上がるにつれて理系から遠ざかる理由は、算数が苦手だからではなく、外的要因による影響が大きいことがわかりました。よって、女の子が「私は女の子だから」という理由だけで理系科目を遠ざけないようにするためには、幼少期から次のようなポイントに留意して関わることが大切です。
ポイント1:女の子だから算数が苦手という先入観を持たない
人間は「確証バイアス」といって、自分がすでにもっている先入観や仮説を肯定するために、自分にとって都合のよい情報ばかりを集める傾向があると言われています。保護者に「女の子は算数が苦手」という先入観があると、お子さんのちょっとしたつまづきやネガティブな発言を「ああやっぱり、女の子だから」と強めてしまったり、母親が「私も算数が苦手だったから、やっぱりこの子も苦手なのだ」と思い込みを強くしてしまったりします。
RISU算数の子ども達のデータからも分かる通り、女の子だから算数が苦手だという説には根拠がありません。もし、女の子のお子さんが「算数が苦手だ」と言うのであれば、それは「女の子だから」ではなく、その子自身の特徴でしょう。苦手を詳しく見てみると、算数の中でもある特定の分野だけが苦手だったということもよくあります。その場合は、苦手な分野を克服すれば、また算数が楽しくなるかもしれません。
ポイント2:「女の子らしさ」を理由に習い事を選ばない
お子さんの習い事を決めるとき、保護者の“こんなふうに育ってほしい”という願いが選択理由のひとつになっていることはよくあります。厚生労働省の「第9回21世紀出生児縦断調査」の結果では、小学1~2年生の時期にはおよそ8割の子ども達が習い事をしていると回答していますが、人気の習い事は、男の子はサッカー、女の子はピアノやバレエというように、性別によって差があるようです。
参考サイト:厚生労働省「第9回21世紀出生児縦断調査」
最近よく見かけるようになったロボット教室やレゴ教室は、男の子に人気があります。プログラミングは算数でも必要な論理的思考力を身につけることができます。幼少期に習い事を選ぶ家庭も多いと思いますが、もし、あなたの娘が「プログラミングをやってみたい」と思うのであれば、女の子だからと否定せずやらせてあげてください。「ロボット教室に来ているのは男の子ばかりだけどいいの?」このような声掛けは、子どもを気遣っているようで、暗に「理系は男子」を印象づけてしまいます。
ポイント3:おもちゃ選びでも男女差をつけない
習い事とも共通しますが、おもちゃ選びについても無意識に男女差をつけてしまいがちです。特に幼少期は、保護者が良いと思ったおもちゃを買い与える場面も多いと思います。もし、この子は男の子だからミニカーを、女の子だからお人形を、と与えているのであれば、性別に囚われないおもちゃ選びを心がけることが大切です。
特に積み木やブロック、粘土などで立体的なものを作る遊びは、男女関係なく算数の図形分野を得意にします。子どもに無理やりこれで遊びなさいと強制することは間違いですが、すぐに取り出して遊べる場所にさり気なく置いておくのはオススメの方法です。
女の子が理系を目指すことに能力的な不利はありません
今回は、一般的に女の子は算数が苦手とよく言われていることについて、データ上に根拠はないこと、算数が嫌いにならないために幼少期からできることについてお伝えしました。
女の子が理系から離れていくのは外部からの声掛けや環境の影響が大きいと思われます。まずは私たち大人世代が無意識にもっている「男の子らしさ・女の子らしさ」のイメージを変えていくことが大切です。幼少期から性差によって扱いに差をつけることをやめ、本人の好きで学びたい意欲に寄り添って、力を伸ばしてあげましょう。
教えてくれたのは
今木智隆/RISU Japan株式会社代表取締役
京都大学大学院エネルギー科学研究科修了後、ユーザー行動調査・デジタルマーケティング専門特化型コンサルティングファームの株式会社beBitに入社。金融、消費財、小売流通領域クライアント等にコンサルティングサービスを提供し、2012年より同社国内コンサルティングサービス統括責任者に就任。2014年、RISU Japan株式会社を設立。タブレットを利用した小学生の算数の学習教材で、延べ10億件のデータを収集し、より学習効果の高いカリキュラムや指導法を考案。国内はもちろん、シリコンバレーのハイレベルなアフタースクール等からも算数やAIの基礎を学びたいとオファーが殺到している。
▶タブレット教材「RISU算数」
ナビゲーター
担当カテゴリー
学び・遊び・教育
算数教材「RISU」代表取締役 今木智隆
RISU Japan株式会社代表取締役。京都大学大学院エネルギー科学研究科修了後、ユーザー行動調査・デジタルマーケティング専門特化型コンサルティングファームの株式会社beBitに入社。金融、消費財、小売流通領域クライアント等にコンサルティングサービスを提供し、2012年より同社国内コンサルティングサービス統括責任者に就任。2014年、RISU Japan株式会社を設立。タブレットを利用した小学生の算数の学習教材で、延べ30億件のデータを収集し、より学習効果の高いカリキュラムや指導法を考案。国内はもちろん、シリコンバレーのハイレベルなアフタースクール等からも算数やAIの基礎を学びたいとオファーが殺到している。