“子どもを伸ばす”環境づくりとは?学校・先生・保護者をつなぐ「先生と保護者の連携ガイド」を紹介
公認心理士で、スクールカウンセラーの西木めいさんが書籍『学校・先生と家庭をつなぐ! 発達障害のある子を支える担任と保護者の連携ガイド』を出版。本の内容や学校・先生との関わり方についてお話を聞きました。
子どもを伸ばす!環境づくりには〇〇が大切
この本をつくることになったきっかけは?
「先生、保護者、学校がもっとお互いにわかりあえたら、子どもはもっと伸びていく」という想いから執筆しました。
保護者から見ると、学校と先生は一体化しているように感じますが、学校と先生の考えは異なることがあり、先生・保護者・学校の三者の想いがすれ違うと、トラブルにつながりやすくなります。
私自身、保護者の立場になって思うのは、先生たちが何をしているのかが見えづらいということでした。子どものためにお互いに連携してできることはたくさんあるので、この本が学校・先生・保護者をつなぎ、次の一歩につながるような本になったらうれしいです。また、発達凸凹に悩む親御さんだけでなく、小学生の子を持つ親御さんにもぜひ参考にしてほしいです。
子どもが伸びる環境づくりとは?
一番大切なことは「見える化」することです。私たちの住む世界には見えないものがたくさんあり、それが私たちの混乱・不安をつくります。例えば、誰かが発した言葉、時間の流れ、人の気持ちなどは、目に見えないだけでなく、その場に残りません。
安心・安全で、子どもが伸びる環境をつくるためには、
- 大人は子どもへ伝えたいことを書いて残し、いつでも参照できるようにする
- 1日のスケジュールを毎日掲示して、変更があったら目の前で動かして見せる
- 気持ちをイラストにしたり、言葉にしたりして指差し確認をする
など、見えないものを見えるようにすることが最初の一歩です。学校だけではなく、家庭でのコミュニケーションでも口頭で済ませることが多くありますよね。子どもに伝えたいことを見える化するだけで、トラブルも少なくなります。
安心・安全な場所は、どのようにつくればいいの?
安心・安全な場所とは、「所属感」と「達成感」のある場所です。
コミュニティの中での「所属感」とは
- 人の役に立てる
- 人に助けを求められる
- 助ける、助けられることが当たり前に感じられる
- 自分の気持ちを共有できる誰かがいる
このような、人と関わる気持ちのことです。
日々の課題の中の「達成感」とは
- 自分の力でこなせそうだと感じられる
- 実際に課題を達成できる
- 失敗してもまたやりなおそうと思える
このような、自分と向き合う気持ちです。
所属感と達成感を感じながら生活するためには、子ども自身に勇気が必要です。「やってみよう」と思える勇気、「失敗しても大丈夫」と感じる勇気を私たち大人が、子どもたちに渡していくことで、安心・安全の場所をつくることができます。
子どもに達成感を感じてもらう時のポイントは、子どもの発達段階・成長レベルに合わせた課題を設定することが大切です。目標を達成できなかったとしても、その過程でできたことを褒めてあげることが、子どもの自信につながりますよ。
子どもとの向き合い方で意識すること&親のNG行為とは
子どもたちとの向き合い方で大切なことは?
子どもの勇気を奪わないことです。
- 誰かと比較してけなす
- 正論で説き伏せる
- 大人の事情や感情を押し付ける
これらの行動はすべて、子どもの勇気を奪います。
子どもに勇気を手渡すためにすることは、
- 「君はそう思うんだね」と感じたことを受け取る
- 「じゃあどうしたい?」と一緒に考える姿勢を見せる
- 「失敗してもまた一緒に考えよう」といつまでも見離さない態度を伝える
このようなことが大切です。
親御さんがよくやってしまうNGなことは、子どもを正論で責めてしまうことです。最短距離で答えを出そうとすると衝突してしまうので、子どもの話を聞いて共感してから話をすることが大切です。
先生との関わり方を変えるだけで子どもの環境がよくなる!?
先生から見て保護者にお願いしたいことは、どんなこと?
教員時代を思い返すと、連絡帳での長文のやり取りは目の前にいる子どもたちとの時が減ってしまうので、長文になってしまう場合は電話などで話をするのがベストです。なにか気になることがあれば必ず報告をしてほしいのですが、急に電話をいただいても対応できないこともあるので、連絡帳でアポイントを取りましょう。
「先生に相談したいことがあるのですが、〇日〇時から、30分ほど時間をいただけますか?」と、時間を決めておくと安心です。
保護者が先生に相談をするときに気をつけるポイント
「先生に一緒に考えてもらいたい」という気持ちをはっきり伝える方が、好転するケースが多いです。よく保護者から
- 先生に話しても、傾聴や共感だけで終わってしまう
- 具体的な対応策が出てこないまま、相談時間が終わってしまう
- モンスターペアレントだと思われないか不安
という相談を受けることがあります。これらを解消するためには、
- 「〜〜という行動を解消するために、先生と一緒に考えていきたい」という明確な目的を伝える
- 「〜〜してください」のように親が支援をまるっと考えて先生に手渡さない
- 次回相談日時を決めて、そこまでにお互いがやることを明確にする(宿題にする)
あくまで「一緒に考える、一緒に試行錯誤する、やってダメならまた一緒に考える」という長期視点が大事です。
責任感がある親御さんほど、自分の考えを先生に伝えないと!と思いがちですが、一方的に考えを押し付けると先生はつらくなってしまうので、「どうしたらいいですか?」と、まず先生の考えを聞くようにしてみましょう。
また、個人面談など限られた時間の中で先生と話すときは、親御さんからして1番気になることを1つ決めていくのがおすすめ。話したいテーマが決まっているのなら事前に伝えておくと先生も準備しやすく、お互いに満足度が高い話ができます。
スクールカウンセラーに相談するタイミングはいつがベスト?
どんな小さなことでもよくて、凸凹が気になる子は入学したらすぐにカウンセラーに相談してくださいと私はお伝えしています。また、うちの子はただ遅れているだけなのか脳になにかあるのか、気になった時に第一専門家というかたちで頼ってほしいと思います。
先生と保護者のよくあるトラブルケース
先生と保護者のトラブルでよくあるケースは“すれ違い”
「学級での支援を先生と約束したのだけれど、やってもらえていない」のような、先生と保護者のすれちがいケースが多いです。
これは、先生としてはやっているつもりなのに、保護者の意図していた支援と違うという、あいまいさからくるトラブルです。
対応策としては、「個別の支援計画・指導計画を、極限までスモールステップにして書くこと」。書面に残すことで、支援の見える化ができますし、先生も保護者も迷った時には支援計画に立ち返ることができます。スモールステップにして書けば、「できました!」と一緒に喜ぶ瞬間も増えます。
また、支援してほしい子どもに対して担任と保護者だけではなくスクールカウンセラーなど大人の目を増やすことも大事です。
先生はみんな支援級の知識を持っているの?
もちろん知っている方が、先生も子どもも保護者も楽になると思いますが、知らなくてもいいと私は思っています。それは、特別支援教育の専門知識をたくさん知っていても、保護者の気持ちや子どもの気持ちに寄り添えない先生だと意味がないからです。
専門知識よりも、
- この子が今、一番ほしい結果はなんだろう
- この子の今一番好きなものはなんだろう
- この保護者が、一番不安に感じていることはなんだろう
- この保護者が、望む未来はなんだろう
ということを、人を目の前にして必死に考えられる人の方が、先生として優秀だと思っています。
最近は、大学で特別支援教育について学ぶ機会があるのでこれからは知識がある先生が増えていると思います。とはいえ、信頼関係をつくることが一番なので先生への感謝を伝えながらコミュニケーションをとるようにしましょう。
子どもたちのよりよい環境づくりは、先生と保護者の連携が大切
子どもたちにとってよりよい環境をつくる為に、先生・保護者ができること、意識することは?
先生、保護者、管理職、地域の大人が、手を携えることです。子育ては「人と人の間で生きていける人間を育てる」ことですから、親一人じゃできないのが当たり前です。親のせいにしない、先生のせいにしない。「社会の中の大人」という役割として、目の前の子どものためにまず自分ができることを探す。そして情報を伝え合って、お互いに尊重しあい、一緒に試行錯誤していくことを意識すると、知らないうちに子どもにとってよりよい環境ができあがります。
子どもが小学生になると、幼稚園・保育園とは違って、学校生活が見えにくくなり戸惑うことがよくあります。『学校・先生と家庭をつなぐ! 発達障害のある子を支える担任と保護者の連携ガイド』は、発達凸凹に悩む親御さんだけでなく小学生の子を持つ親御さんにぜひ、手に取ってほしい一冊です。
取材・文 やまさきけいこ
※本のタイトルでは、検索しやすくするために発達障害という言葉を使っていますが、通常は神経発達症、発達凸凹という言葉を使用しています
書籍情報
[タイトル]学校・先生と家庭をつなぐ! 発達障害のある子を支える担任と保護者の連携ガイド
[出版]明治図書
発売日:2024年9月
定価:2156円
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