モンテッソーリ教育の「お仕事」は遊びとどう違う?集中力を高める3つのポイント
モンテッソーリは子どもが時間を忘れて没頭することを「集中現象」と呼びました。私は職業柄「子どもに集中力をつけさせるにはどうしたいいでしょうか?」と質問を受けることが多いのですが、はたしてどんな条件がそろえば子どもは集中するのでしょうか。
モンテッソーリの「お仕事」は「遊び」とどう違う?
モンテッソーリの教室には「お仕事」と呼ばれる活動が用意されています。子どもたちは整然と棚に並べられた教具の中から好きなものを自分で選んで、取り組みます。
針を使って縫い物をする子ども、洗濯をする子ども、文字を書く子ども…やっていることは皆バラバラですが、よく集中しているので、幼児20人以上が集まっている部屋なのに驚くほど静かです。
このように、子どもが熱中する「お仕事」と「遊び」との違いはなんでしょうか?
モンテッソーリのお仕事には、ひとつひとつに「目的とねらい」があり、それにそった「使い方」があります。
子どもにとってちょうど良い難易度で、ひとつの仕事ができるようになれば、次の仕事にチャレンジできるように連続性を持たせてあります。
例えば、小さなピッチャーに入った豆を別のピッチャーに移す「あけ移し」と呼ばれるお仕事があります。
豆をこぼさないように、手首をゆっくり動かす・調節することを目的としていますが、初めての子どもにとってはなかなか難しい動きです。気持ちを集中させなければ、豆はすぐにこぼれてしまいます。
大人の手本と同じようにやろうとしても、最初のうちはうまくいきません。子どもはそれでもあきらめずに、いったん中断して豆を拾って、もう一度、もう一度…と成功するまで何度も繰り返します。
このときの子どもは、おのずと集中しています。何度も挑戦するうちに、やっと成功したときには素晴らしい達成感に包まれています。「やった!僕はもうできるようになったよ!」
もう一度、確かめるように豆をあけ移します。手の動きは始めに比べるとずっとスムーズで、表情は自信に満ちています。この自信が、子どもを次のお仕事へと導いていきます。
子どもの好奇心を満たすという点では、お仕事と遊びに違いはないかもしれません。しかし、お仕事には子どもが自分自身を育てるための目的と達成感があります。
子どもを引きつけてやまないのはちょうど良い刺激と、ひとつ達成するごとに育つ自信なのです。
「集中現象」が現れる3つの条件
モンテッソーリは、子どもが時間を忘れて没頭することを「集中現象」と呼びました。私は職業柄「子どもに集中力をつけさせるにはどうしたいいでしょうか?」と質問を受けることが多いのですが、はたしてどんな条件がそろえば子どもは集中するのでしょうか。
1.子どもは“お仕事”が大好き
子どもはでたらめに遊ぶことが好きだと思われるかもしれませんが、2歳半頃から秩序感が育ち始める幼児にとって、「ルールがある遊び」は心地が良いものです。
ルールに合わせて体を動かした結果、目的が達成されるという状況で子どもは「集中する」ということを学んでいきます。
買ってきたおもちゃよりも、むしろ日常生活にある道具に興味を持ちます。
大人がやっているように自分もやってみたい、という欲求が満たされるものなら、なんでもお仕事になります。家庭にあるもので、子どもに合うものがあるか探してみてください。例えば、次に紹介する活動は家にあるものでも代用できると思います。
子どもがお仕事に集中しているときには、向こうから声をかけられない限りは邪魔をしないようにしましょう。お散歩に出かける時間になったとしても、きりが良いところまでやらせてあげてください。
2.自由に“好き”を選んで繰り返す
子どもが自然に引きつけられる「お仕事」には、「子どもの成長段階にあっている」「子どもの手のサイズにあっている」「見た目に美しいもの」といろいろな要素があります。
しかし、用意したものが子どもにとって正解かどうかは大人にはわかりません。だからこそ、モンテッソーリの教室では子どもが自分でお仕事を選べるように、いつでも棚に置いてあるのです。
家庭でも同じことが言えます。大人が教材を買ってきて、「ほらやりなさい」といっても子どもには響かないかもしれません。
そんなときは子どもの目につく場所に置き、子どもの反応を見てください。世界地図やひらがな表は壁に貼っておいて、子どもが興味を示したときに少しずつ教えてあげましょう。
3.体を動かして集中力を養う
子どもの集中を最も促すのは、身体的な動きを伴う活動です。椅子を運ぶ・水をくむときのように体全体を大きく使うこともあれば、ハサミで切る・のりで貼る・文字を書くなど指先を細かく使うこともあります。
自分のイメージした通りに体を動かすことができたら、子どもにとってこんなに楽しいことはありません。大人の手本を参考に、自分も同じようにやってみようとします。
初めはうまくいかなくてイライラするかもしれません。でもたくさん挑戦すればそれだけ上手くなることを伝えて励ますと、子どもは信じて挑戦を続けられます。
子どもの頑張りの邪魔になるものは、大人が取り除いてあげましょう。
ハサミが手のサイズにあっていないために切りづらい、そもそも課題が難しすぎるなどの問題は観察していれば気がつくと思います。もう少しでうまくいきそうだ、と子どもが感じるくらいがちょうど良い状態です。あとはもう手を出さずに見守りましょう。
映画で子どもの家を見学できる!? ドキュメンタリー映画『モンテッソーリ 子どもの家』
モンテッソーリ・メソッドに興味があっても、何から初めていいかわからないという方は多いと思います。通える場所に「子供の家」がないかもしれませんし、家でできることがあるか知りたい方もいるかもしれませんね。まさにそんな人に朗報です!
2月に公開される映画『モンテッソーリ 子どもの家』は、フランス最古のモンテッソーリ学校に通う2歳半〜6歳の28人のクラスを2年3カ月にわたって観察したドキュメンタリーです。
まるで子どもの家に見学に行ったような視点で、教室の中をじっくり見ることができます。初めて見る人にとっては、よく整えられた教室の環境やたくさんの美しいモンテッソーリ教具だけでも十分に見応えがあるでしょう。
子どもたちは教室の中を自由に動き回り、棚に置いてあるたくさんのお仕事の中から好きなものを選んだり、友だちがお仕事をしているのを見て回ったりしています。小さな子にお花の水換えの仕方を教えている年長の子もいます。
じっくり時間をかけて「あけ移し」のお仕事を選んだ子は、道具を机まで運ぶと椅子に座ります。小さな右手にピッチャーを持ち、手を傾けて中に入っている小さな豆を左手のピッチャーに移します。そのときの目の真剣さは驚くほどです。
担任の先生は無駄に声を出さず、子どもの活動を観察してそれぞれの成長をよく見極めています。
ちょうど文字に興味を示した子どもには、「砂文字板(サンドペーパーを切り抜いて作った文字を貼りつけた板)」を手渡し、ゆっくりした動きで使い方を見せています。先生の動きは、私たち大人にとっての良いお手本になると思います。
子どもを必要以上に子ども扱いせずに、ひとりの人として尊重した態度で接しています。小さな声で穏やかに話す姿もとてもエレガントです。まずは予告編で子どもたちのかわいらしい表情をご覧ください!