親子で探求する数の世界、一番大事なのは「感覚」を使うことだった!
「感覚」を使うことが、数学のセンスを身につけるコツ?ついつい子どもに数字や計算の仕方を教えたくなりますが、それより大切なのは数的なものを感覚でとらえる経験をたくさん積むことです。子どもと一緒に数の世界を楽しむ方法を紹介します。
感覚を使うことが、数学の土台になる?
子どもは成長の過程でさまざまな敏感期(敏感期については過去の記事で解説しています)を経験します。
特に3~6歳は「感覚」の敏感期といって「味覚、嗅覚、聴覚、視覚、触覚」など体の感覚を使って、世の中の事柄を理解していく時期です。
例えばあなたが「お餅」を食べたことがないとしましょう。「柔らかくて、粘り気があって、とてもおいしいもの」という説明を聞くよりも、実際に食べてみたほうがわかりやすいですよね。
視覚で「色や形」を見て、嗅覚で「匂い」を感じて、触覚で「感触」を確かめて、味覚で「味」を感じてみます。そうすれば総合的に「餅とはこういうもの」と実感できます。
初めてのものを理解するには感覚を使うことがとても重要です。特に子どもは大人より感覚が鋭く、経験を通して多くの物事を吸収します。人から聞いたり教えられることよりも、自分の興味に従って感覚的にとらえたことからより多く学びます。
これは数学についても同じです。訳も分からずに数字や計算の仕方を教えられるよりも、まずは数的なものを自分の感覚でとらえる経験を積むほうが良い土台ができます。
モンテッソーリのプログラムでも「感覚」分野の活動によく親しんだ子どもは、「数」の活動に自然に移行していけるようになっており、「感覚」が「数」の下地になっていることがよくわかります。
数の世界がわかりづらい理由
数の世界を「感覚」でとらえるにはどうしたらいいでしょうか。お餅の場合とは違って、数字が厄介なのは「実態」がないことです。
1、2、3、4という数字は、直接手で触れて確かめるわけにはいきませんね。そこでモンテッソーリ・メソッドでは、教具(具体物)を使って数を感覚的に捉える助けにしています。体系的に用意された数の教具はたくさんありますが、その中からふたつほど紹介します。
数の棒
10本の棒とそれに対応する1~10の数字の木札でで構成されています。1~10までの数の変化は棒の「長さ」という「量」に置き換えられています。
1の棒は10cm、2の棒は20cm、…10の棒は100cmと正確に作られています。2の棒は1の棒の2倍、3の棒は1の棒の3倍の長さ。数字が大きくなれば、それに比例して棒は長くなっていきます。
子どもは棒を運んだり、絨毯の上に並べたり、手で繰り返し触れることで、初めはぼんやりと「これが1の棒」「これが2の棒」「これが3の棒」…と感覚的に長さの変化に慣れていきます。
1の棒は短いので持ち運びがラクですが、10の棒は100cm。子どもの身長ほどの長さなので持って歩くのは大変です。「わあ、こんなに長い!」と実感します。この経験で、10という数は1に比べてどれだけ大きい(長い)かということを身をもって知るのです。
棒の活動を繰り返して十分に1~10の棒の長さの変化に慣れたら、カードを使って数字と対応させます。
1、10、100、1000のビーズと数字カード
1個、10個、100個、1000個のビーズとそれに対応する数字カードで構成されています。1、10、100、1000の数字の変化は立体の「大きさ」と「重さ」という「量」に置き換えられています。
10は1が10個集まったもの、100は10が10個集まったもの、1000は100が10個集まったもの。数字が大きくなればそれだけビーズは大きくなり、重くなります。
1は指先で持てるほど小さくて軽いけれど、1000のビーズは両手が必要なほど大きくて重い。「1000ってこんなに重たいんだね!」と子どもと感じながら、1000という数の大きさを伝えます。
ビーズにたくさん触って1、10、100、1000の量に慣れたら、数字カードと対応させます。
モンテッソーリの「感覚」「数」の教具は、子どもが量の変化をとらえやすいように大きさ・重さ・長さなどが「正確」に作られていて、変化に「規則性」があります。「数の棒」は数がひとつ増えるたびに正確に10cmずつ長くなるように作られています。
実は最初に紹介した「ピンクタワー」も10個の立方体で構成されていて、最小の立体の一辺は1cm、最大の立体では10cm。全ての立体が1cm刻みで大きさが変化するという規則性を持っています。ピンクタワーの活動に数字は登場しませんが、実は数的な活動の下準備になっています。
「量と数詞と数字」を一致させる
「数の棒」、「1、10、100、1000のビーズとカード」のいずれの場合も、はじめに「量」と「数詞」を一致させることから始めます。数詞とは「いち」、「に」、「さん」や「せん」などのように数を表す「名称」のことです。
数の棒を初めて紹介する場合、子どもの目の前に1の棒をおきながら「これはいちの棒です」と紹介します。まずは目で見て、手でよく触ってみて、「いち」という言葉に対応する「長さ」にしっかり触れます。
1~10の棒の長さの変化に慣れたところで、数字カードの紹介に移ります。数字とは数を表す「文字」です。数詞の「いち」を表わす数字は「1」であり、「に」は「2」、「さん」は「3」です。こうして数詞と数字の一致もできるようになります。
このような手順を追って、最終的に量(棒の長さ)と数詞(いち)と数字(1)を一致させることができます。
とても回りくどい手順を踏んでいるように見えますが、細かいステップに分けて紹介することで幼児でも数の概念を捉えられるようになっています。
「1」とはどのくらいの量で、「2」はどのくらいの量であるか。「1」と「2」の関係はどういうものなのか。その規則を子どもが一度自分のものにしてしまえば、そこからの数の世界はどんどん面白くなります。
「1」と「2」を合わせるとどうなるか、「2」から「1」を取るとどうなるか、「2」を半分にするどうなるか…。数の全てが子どもにとって楽しい実験になります。
家庭でのんびりやってみよう
正確性と規則性のことを知っていれば、日常生活の中に数的なものを見つけられます。子どものおもちゃで言えば、電車を走らせるレールや積み木、レゴブロックなどには数の活動に使えそうです。
同じ形で、しかも連結・分解できるレールやブロックは量と数詞、数字の一致に向いていますので、数に興味が出てきた3歳ごろのお子さんと一緒に積み上げたり、並べたりしながら数えてみるといいと思います。
子どもが楽しんで数えられるようなら、お手製の1~10の数字カードを用意してブロックの数と対応させてみましょう。
慣れないうちは、たくさん間違えます。答えが違っているときでも間違えを指摘しないで「本当にそうかな?もう一度数えてみてね」と促したり、子どもと一緒に数えてみるなど楽しくなるように工夫をしてください。
モンテッソーリメソッドでは、たくさんの教具を使いながら細かく段階を踏んで「量」「数詞」「数字」を一致させていきますが、家庭では親子で楽しみながら数に触れる機会を作っていくといいと思います。
ブロックが積み木が家にない場合でも、工夫次第で自然に数と触れ合う機会を作れます。
例えば
- おやつの数や椅子の数を子どもと一緒に数えてみる
- 「スプーンを2本とって」のように数を指定したお願いごとをする
- 「今日は1月15日」「部屋の温度は20度だよ、あったかいね」など数をさりげなく会話に取り入れる
- 停まっている車を見かけたら、ナンバープレートを一緒に読んでみる
お勉強するのではなく、子どもと一緒に数を面白がることがコツです。遊びなので間違えても大丈夫!楽しみながらやってみてください。