子どもたちと「未来」を見てきたお話。分身ロボット「OriHime」でできること
先日、親子でOriHimeロボットでの遠隔コミュニケーションを体験するというワークショップを実施しました。体の障がいによって外出が困難な状態でも、テクノロジーで外の人と繋がることができる。そんな未来を親子で体験してきたレポートです。
分身ロボット「OriHime」とは?
*今回の記事はモンテッソーリ・メソッドのお話ではありませんが、「子ども主体の学び」という点で同じ考え方に基づいたワークショップについて取り上げています*
いまやロボット技術は、私たちの生活に幅広く活用されるようになりました。
AIによって家事や仕事が効率化されて利便性が高まるという点もあるものの、生産性だけで評価され、監視が強まる職場環境やAIに仕事を奪われるといった少し冷たい印象を受ける場合もありますね。
一方で、とても温かみのあるロボットもあります。オリィ研究所が2010年に発表した分身ロボットOriHime(オリヒメ)です。
「人類の孤独を解消する」ことを目的に作られたOriHimeはAIではなく、人と人を繋ぐロボットです。
カメラ、マイク、スピーカーが搭載されており、インターネットを用いて遠隔操作できます。利用者(パイロットと呼びます)は、自宅にいながら離れた場所の相手の顔を見ながら会話することができます。
学校や会社、あるいは離れた実家など「移動の制約がなければ行きたい場所」にOriHimeを置くことで、周囲を見回したり、聞こえてくる会話にリアクションをするなど、あたかも「その人がその場にいる」ようなコミュニケーションを可能にします。
子どもたちと体験したOriHime
先日、OriHimeを使ったコミュニケーションを体験する親子向けのワークショップを開催しました。会場に3体のOrihimeを用意し、マサさん、みかちゃん、ねねちゃんの3人のパイロットのみなさんをお迎えしました。それぞれに体に障がいがあり、外出が困難な方々です。
パイロットさんがOriHimeに繋がって「こんにちは~!」と声を出した瞬間、それまで無機質に見えたロボットが突然「人」のように見えます。会場の子どもたちは「うわあー」と歓声をあげて、一斉に手を振りました。
離れた人の顔を見ながら話すのであれば、実はテレビ電話でも構わないわけですが、OriHimeだと何が違うのでしょうか。
OriHimeは人の形をしていますし、話している人の方を向いたり手を振ったりできます。そこには確かな「存在感」があり、その人の「人となり」を感じることができます。
ワークショップに参加した子どもたちも、OriHimeロボットを自然に「人」として扱っていました。OriHimeの向こう側に存在するパイロットさんと目線を合わせようとしますし、相手の話し方や声のトーンによって、本当は変化していないはずのロボットの顔に表情を読み取るようになります。
OriHimeは接する人の気持ちを暖かくする、優しいロボットなのです。
子どもたちが感じ、考えたこと
高学年グループでは「ロボットと人との関わり」について白熱した議論が展開されていたようなのですが、私が担当した小学1~2年生のグループはOriHimeと一緒にゲームを楽しみました。ねねちゃん(小学3年生のパイロットです)がグループに参加して、その場でできる遊びをみんなで考えました。
お絵かき、しりとり、戦いごっこ、ジェスチャーゲーム、伝言ゲーム、マジカルバナナ、リレー、かくれんぼなど、だいたいアイディアが出たところで、「実現できそうか」という視点でひとつひとつを確認します。
「しりとり、とかなぞなぞはオッケーだよね」「戦いごっこはダメだよ」「かくれんぼ、絶対ナシ!!」子どもたちがどんどん声を出しました。ねねちゃんOriHimeからも「それは難しいです」と声が聞こえてきます。
ジェスチャーゲームについては、「私が答える係ならできます!」と元気な声が。会場の子どもたちも「いいね、ジェスチャーゲームやりたいね!」と賛同しました。
- お絵かき…△ (できるけれど、みんなでできることの方が楽しくない?)
- しりとり…○
- 戦いごっこ…×
- ジェスチャーゲーム…○(ねねちゃんが答える係ならOK)
- 伝言ゲーム…×
- マジカルバナナ…○
- リレー…×
- かくれんぼ…×
この中から「しりとり」と「ジェスチャーゲーム」を選んで、遊んだ子どもたち。
ジェスチャーゲームは2チームに分かれての対抗戦となりました。各チームのリーダーがカードを見て動作をし、チームメンバーが当てます。
「ラーメンを食べているところ」「野球をしているところ」「泳いでいるところ」などの動作を、ねねちゃんも一緒に答えて楽しみました。
「もうわかった人はいる?」と聞くと、ねねちゃんOriHimeが「はい!」と右手を振り上げていました。声が弾んでいます。しりとりに比べて動きが大きくなったので、興奮して立ち上がった子どもがうっかりカメラの前に立ってしまう場面も。これではねねちゃんOriHimeは前が見えません。
最初は「そこに立つとねねちゃんが前を見られないよ」と声をかけることがありましたが、そのうち自然に気遣ったり「あっ、ごめん見えてる?」と声をかけている姿も見られました。
見た目にはOriHimeロボットがあるだけなのですが、そこに「ねねちゃん」をしっかり感じています。
時間ギリギリまで盛り上がり、まだ遊び足りなかった様子の子どもたち。ねねちゃんがOriHimeだと言うことをあまり意識せずに思いっきり笑ったり、盛り上がったり。ごく普通の休み時間のように楽しく遊びました。
普段は障がいのある方々と知り合う機会が少ない子どもたちです。小学1~2年の彼らにとって、相手がどんな不便を感じているかを想像してみるのはなかなか難しいことです。
「困っている人がいたら助けてあげよう」という気持ちがあっても、どうするべきなのか、実際に触れ合ってみてわかることがたくさんあります。
障がいのある・なしに関係なく、自分と違う立場の人たちの状況を知り、互いに気持ちよく過ごすにはどうしたらいいか考えることは、日常生活を送る上で大人にとっても必要なことではないでしょうか。
今回のワークショップでは、子どもたちが相手の困っていること、必要なことに気がついて、どうやって援助できるか考えて行動することができました。
子どもたちから「ねねちゃん、また会えるかな」「また遊びを考えとく」と声が上がりました。ねねちゃんとはもう友達になったようです。次に会うときのことも考えているのですね。
OriHimeが紡ぐ未来、みんなでボーダーを越えてゆけ!
私自身も数カ月前まではOriHimeについて何も知りませんでした。研究所の公式動画やドキュメンタリー番組を見れば基本的なことはわかりますが、しかし「OriHimeがどんな役割を果たすのか」という一番大切な部分は、体験してみるまで分かりませんでした。
ワークショップに参加した子どもたちの行動に変化が生まれる様子を目の当たりにして、テクノロジーは世の中を良い方に変えることができるということを実感しました。
いまはインターネットやOriHimeのような技術がありますから、距離や障がいを越えていつでも繋がることができます。子どもたちが創る未来の世界は、きっと明るい。子どもたちは、大人よりも軽々とボーダーを越えていけるのかもしれません。
おまけの話
ワークショップ後の打ち上げは、渋谷で行われていたOriHimeが働くロボットカフェに行きました。私たちは席の予約をしていなかったので、OriHimeが接客しているのを少し離れたところで見るだけだったのですが、オリィ研究所の方がきてくださいました。
ビデオカメラを手に「今日の勤務シフトに入ってないパイロットがここの様子を見られるように、カメラを回してるんですよ」とのこと。画面には、パイロットさんたちがカメラの映像を見ながらチャットをしている様子が表示されていました。
なんとそこで、さっきワークショップ会場で「またね」と言い合ったパイロットのマサさんとみかちゃんに再会しました!「さっきはありがとう!お疲れさま!」とねぎらいあった私たち。
なんだか近未来な体験をした一日でした。これからはこんな出会いが普通になっていくのでしょうか。だったらステキですね。