失敗すると自分を殴るクセがある小1男子
困ったら増田先生に聞いてみよう!放課後相談室
Q.注意したり失敗すると自分を殴ります。原因は?
小1男の子の母です。 赤ちゃんの頃からなのですが、親や祖母に注意されたり叱られたりすると、自分のことを殴るくせがあり悩んでいます。赤ちゃんの頃は、コードを触ったり危ないところに行ったりするのを注意されるとパチンと顔を叩く程度でしたが、今は宿題の漢字を書き間違えたり、計算を間違えたりしてそれに自分で気が付くと「ダメだ、ダメだ!」とグーで殴ってしまいます。「それくらい消して書き直せば大丈夫」と大体私が殴るのを止めるのですが、切り替えが上手くできないようです。 物事に対して失敗したりすることが嫌いで、また完璧主義気味のところもあるのかなとは思うのですが、どう対応して良いのか分かりません。最近はそれを見て3歳の弟まで真似して自分を叩くようになってしまいました。 幼稚園や学校の先生に伺ったらそのような行動は見られないということで、主に家にいるときにそうなってしまうようです。(forest)
A.「認められ願望」が強いのかもしれません
子どもは何かトラブルがあると、大抵自分の都合の良いことしか言わないものなのです。例えば、友達とケンカしたことが父母に伝わったときに、必ず「自分は悪くないよ! 相手が先に手を出してきたんだもん!」と怒られたくないがために言い訳をします。いわば、自己防衛です。
幼稚園や学校ではそのような行動が見られないとするなら、親や祖母に認められたいとか注目を引きたいという思いが強すぎるのかもしれません。自分で自分を殴れば、絶対大人は止めさせますよね。そのことを期待して、自分を傷付けているのかもしれません。一言で言うなら、「認められ願望が強い」ということがいえると思います。幼稚園や学校では、他のお友達がいるので、そこまで愛情を独占したいとは思っていないし、“先生はみんなの先生”という意識は持っているのでしょう。
怒られることを怖がっている可能性も…
次に考えられるのは、小さい頃に比較的厳しく育てた場合に起こることですが、「怒られることをすごく怖がっている」という可能性があります。
「悪いことをしたら怒る」という行為そのものは、悪いことではありません。むしろ、子育てには必要なことです。しかしながら、あまりにも怒られることが続くと、「怒られることを怖がったり、怒られることは自分の存在が否定されることだ」と考える子どもになる可能性があります。つまり、「怒られる前に、自分で怒ってしまえ!」という心理です。そうすれば、怒られなくなるし、自分を否定されないで済むと考えるからです。
子どもというのは、大人が考える以上に、難しい存在です。
子どもに必要なのは、ビタミン“I”
小さい頃から、たくさんの習い事に行っている低学年の子どもが多くなりました。たくさんのお金をかけ、いろんなことを経験させたいという親心から出ていることですから、一概に悪いことだとは思っていません。
ただ、子どもは親の愛を食べて育ちます。これを私は、ビタミンI(愛)と言っています。子どもは、お金をかければ良くなるものではありません。きちんと愛情をたっぷりかけてあげることが、子どもが育っていくには必要なのです。
子どもの気持ちを聞いてみる
「3歳の弟まで真似して自分を叩くようになった」ということからも、自分を叩けばかまってくれるという意識が強い可能性があります。
こうした場合には、「そんなに自分を傷つける必要はないのよ」とか「やめてほしい」などと訴えても、やめるものではありません。小1になれば自分がどうしてそのような行為をするのかを、うすうすは気付いているはずです。ですから、行動の裏側の気持ちを聞いてみましょう。
「どうして自分を殴ったり叩いたりするの?」と聞いてみましょう。素直に言ってくれればそれで良いのですが、「分かんない」とか「う~ん!」などと言ってくるようだったら、「自分を叩いたりすれば、大人がかまってくれると思っているの?」とやさしく聞いてみることです。問いただすように聞いてはいけません。
そして、子どもの思いを知った上で、「そんなことをしなくても、私もおばあちゃんもあなたが大好きよ!」とはっきり伝えてください。今の子どもたちには、「これだけやっているんだから、愛情が伝わっているはず」と思うのはNG。ちゃんと、「好きだよ!」「かわいいよ!」「愛しているよ!」と、口で伝えてあげましょう。そうしなければ、今の子どもたちには伝わりません。なぜなら、現代は自己否定のメッセージが、子ども世界や社会全体に蔓延しているからです。「もっとできるはず!」という思いを親が持つのは普通ですが、子どもはずっと頑張り続けることはできないのです。ときには、休憩も必要です。
疲れた子どもに一番効くのは、ビタミンI。そして、親の笑顔です。親がニコニコ笑って、温かいまなざしで見てあげるだけで、子どもは明日も頑張れるようになります。
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新刊「『いじめ・自殺事件』の深層を考える-岩手県矢巾町『いじめ・自殺』を中心として-」(本の泉社、1620円)発売中。
増田修治先生 白梅学園大学子ども学部子ども学科教授。 1980年、埼玉大学教育学部を卒業後、埼玉県の小学校教諭として28年間勤務。 若手の小学校教諭を集めた「教育実践研究会」の実施や、小学校教諭を対象とした研修の講師なども務めている。 「笑う子育て実例集」(カンゼン)、「『ホンネ』が響き合う教室」(ミネルヴァ書房)など、著書多数。