親のお金を盗んだ小3の息子を信じられなくなった…どうしたらいい?
夫の財布からお金を盗んだわが子に、夫も私も冷たい対応になってしまいます
小3の息子は、ほしいおもちゃ(360円)のために、夫の財布から1000円札を盗りました。 一緒に出かけた私には、「お父さんがお金をくれた」と言ったので、帰宅後、夫に理由もなくお金をあげないように注意するつもりで話したところ、夫はお金をあげていなくて、息子が夫の財布からお金を盗ったことがわかりました。
夫は「買ったおもちゃを息子から没収する」というので、私は代わりに、息子の貯金から弁償させることを提案しましたが、夫は勝手に財布を漁られたことへの嫌悪感、お金を盗られた不信感で、「対面で食事をするのものイヤだ」と、今までかわいがっていた息子への態度が変わってしまいました。夫の実家への帰省も「泥棒を家へ入れたくないから今後は行かせない」と言っています。
息子には、人のものを勝手に漁ること、お金を盗ることは絶対にやってはいけない、盗ったものを返せばそれで済むということではなく、相手の信頼を裏切ることになり、一度信頼を損ねたら、挽回するのはとても難しいと伝えましたが、どこまで理解しているかわかりません。私もウソをついてまでおもちゃを買おうとしたことがショックで、つい冷淡に接してしまいます。
(こめ)
中学年で一番多いのは、お金を盗むことと万引きです
中学年で一番多いのは、「お金を盗むこと」と「万引き」です。これは、親が気づいていない場合も含めて多いです。
中学年になると、お小遣い制になる家庭も多いと思います。「自分の自由になるお金で、自分の好きなものを買うことができる」、これは、ものすごく魅力的なことです。その魅力を知ってしまうことで、手に入れたいものがあると、何とかしようと思ってしまうのです。お金がない時は、親のお金を盗んで買うか、万引きをするのです。もちろん、悪いことだとは思っていますが、その欲望に負けてしまうのです。
私は、それは仕方がないことだし、一度はかかるハシカみたいなものだと思っています。子どもだけでなく、大人だってほしいものがあったら、何とか手に入れたいと思いますよね。大人は先のことを考えるので、「使うお金を節約して、貯めたお金で買うぞ!」と考えることができるのです。
中学年の子どもは、そうしたブレーキがまだ十分に働かない年齢です。そうした特性を、まず理解してほしいと思います。
世の中には子どもに買わせるワナや、仕掛けがたくさんある
また、世の中は、いかにして子どもに買わせるかというワナや仕掛けがたくさん作られていることも知ってほしいと思います。
たとえばスーパーマーケットには、レジの横に必ずチョコや飴、ガムなどのお菓子が並んでいます。しかも、子どもの目線の高さになるように作られているのです。レジで一緒に並んでいる時に、「お母さん、これほしい!」と言って、子どもにお菓子をせがまれた経験はありませんか?
また、コンビニやスーパーマーケットには、はやりのお菓子や、キャラクターをあしらったお菓子が、必ず子どもの目線に置かれています。子ども用のお菓子は、絶対高い目線には配置しないのです。
つまり「買いたくなるような商品配列をしている」ということです。コンビニでは、なるべく長く歩いてもらうことで、お客さんにたくさんのものを買わせようと考えているので、もっともよく売れる弁当や、サンドイッチ類を店内の奥に配置しています。いかに手に取らせるかが、勝負なのです。
知り合いのスーパーマーケットの店主に聞いたことがあります。「いかに手に取らせるかを工夫すれば、商品は売れる。そのかわり、万引きも多くなるので、あらかじめ売り上げの損益として計上している」とのことでした。ほしいものがたくさんあるのに、お金がなくて買えない。そうした飢餓的状態に置かれているのが、子どもや私達なのです。
子どもは失敗するもの。その失敗から正しく学ばせるのが親の役目
たくさんある相談の中で、この相談はすぐにでも答えなくてはいけないと考えました。それは、このままいくと家族がぎくしゃくしてしまうと思ったからです。お悩みを読んでいると、両親が教育熱心だからこその危険があるように感じました。
お父さんやお母さんは「買ったおもちゃの没収」「子どもの貯金から弁償」という対応をしています。ここまでは、よい対応だと思います。
しかし「勝手に財布を漁られたことへの嫌悪感」「お金を盗られた不信感」で、対面で食事をしないという対応は、絶対に避けなくてはいけません。しかも、かわいがっていた息子への態度が急変しているのです。
子どもはどう受け止めるでしょうか。「少しでも失敗をすると、絶対に許されないのだ!」とか、「いつもいい子でなくては見捨てられてしまうのだ!」と思ってしまうのではないでしょうか。そうなると、見捨てられないために、子どもは一生懸命いい子を演じようとしてしまうのです。
あるいは、「このくらいで見捨てる親だったら、もういいや!」と投げやりになり、悪いことを始めるようになることも考えられます。
お父さんの実家への帰省も「泥棒だから今後は行かせない」などと言うのは、気持ちはわかりますが、子どもにとってはツラすぎます。お母さんの「つい冷淡に接してしまう」というのも、子どもにとってはかなしい言動です。
子どもは失敗するものです。その失敗から正しく学ばせるのが、親の役目です。お子さんは、もう十分に反省しています。ちゃんと言い聞かせたあとは、いつもの通りにニコニコと接し、「少しぐらいの過ちでは見捨てないよ!」というメッセージを出してあげてほしいと思います。
大人だって、これまでにウソもついてきたし、ごまかしもしてきたはずです。子どもだけに、精錬潔白さを求めるのはやめましょう。
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増田修治先生
白梅学園大学子ども学部子ども学科教授。
1980年、埼玉大学教育学部を卒業後、埼玉県の小学校教諭として28年間勤務。
若手の小学校教諭を集めた「教育実践研究会」の実施や、小学校教諭を対象とした研修の講師なども務めている。
「笑う子育て実例集」(カンゼン)、「『ホンネ』が響き合う教室」(ミネルヴァ書房)など、著書多数。