「子どもの将来のために」お手伝いはさせたほうが良い?後悔やリベンジを子どもに押し付けていませんか

このコラムでは大阪教育大学教育学部教授の小崎先生が、「こんな時どうしたらいいの?」「子育ての“ココ”が知りたい!」という皆さんのお悩みに答えます。
Question: 将来のことも考えてお手伝いをさせたいのですが、嫌がります。無理にでもさせたほうが良いでしょうか。
この悩みは多くの保護者の方が持つものではないでしょうか。ここにはどんな親の思いや願いがあるのでしょうか?大きく二つの思いが見られますね。
一つは、子どもが将来自立していく中で、何かに困らないように、せめて自分の身の回りのことぐらいはできるようになってほしい、という「子ども自身の経験を増やしたい」という思いです。そしてもう一つは、「将来に対する漠然とした不安」です。
この二つとも、親心からくるものであり、子どもがかわいいからこそついつい言いたくなってしまい、無理にでもさせたいと願ったりするのでしょう。
子どもの立場から考えると…?
しかし子どもの立場から考えると、また別の景色が見えてきますね。特に「嫌がること」を「無理やりさせる」ということは、少し考え直す必要があります。
昭和の時代は「親の言うことは聞くもの」「我慢してやる中で身につく」「石の上にも三年」などという価値観が確かに存在していました。また今もそのような考え方は一部存在しています。しかし個人の自主性や一人ひとりの想いを大切にすることが、社会的な柱の一つになっている令和では、もう少し考え方自体をアップデートしても良いと思います。
「無理やり」やったものは身につかない
まずはお手伝いですが、基本的に「嫌々・無理やり」やったものは、あまり身につかないと思います。もちろんゼロだとは思いません。保護者の皆さん自身はどうでしたか?学びであったり、運動であったり、習い事であったり、子どもの頃、何か強制的にさせられていた経験を少し思い出してみてください。
私自身の経験からも、無理やりやらされていたものを思い出すと、苦手意識があったり、時として嫌悪感を抱くものもあります。反対に、楽しく関わったものや好きでしていたものは、いまだに好意的に捉えていたり、一生の財産となっています。ですから、いくら子どものためといえども「嫌々・無理やり」ということは、避けたほうが良いと思います。
「子どもの将来のため」は本当?
そして「将来のため」というフレーズですが、これもなかなかにくせものです。「この子の将来のために、今頑張らせています」「この子の未来の夢を叶えるために、我慢させています」などと、保護者の方からお話をお聞きすることがあります。
気持ちは痛いほどわかります。もしかすると保護者の方自身が、幼いときのことが原因で現在苦労していたり、うまくいかなかった経験などがあれば、余計に力が入ってしまうでしょう。子どもの輝かしい未来を作るために、親ができることの一つとして、今、子どもに我慢や努力を強いているのです。
しかし少し考えてほしいのですが、「子どもの輝かしい未来」は、「今・ここ」と言う現在進行形の先にしか存在はしません。今を一足飛ばしに、未来などは存在しないのです。そのように考えると、子どもたちにとって一番大切なことは、未来のお話ではなく今日のことであり、「今・ここ」での充実や喜びだと思います。つまり未来は現在の積み重ねの先にあるものであり、そのためには子どもが今日という日をよりよく生きること、喜びを感じられることが、一番大切だと思います。
未来のためにではなく、今この一瞬を楽しくに過ごすために
大人は自分の経験も含めて、幼い頃に身につけておいた方が良いこと、学んでいた方が良いことをいろいろと感じています。しかしそれは時として、自分の人生の後悔やリベンジを、子どもに押し付けてしまっていることもあります。
子どもは、未来のために生きているのではなく、この一瞬一瞬を自分のものとして生きる存在です。親として未来を大切にしたい気持ち、不安を解消したい思いはよくわかります。しかしだからこそ、今日という日を保護者の方と一緒に、ご機嫌に過ごしてほしいのです。
お手伝いも子どもだけにさせるのではなく、楽しく一緒にしてほしいと思います。思い出や経験が、「人としての大切なこと」につながります。
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担当カテゴリー
学び・遊び・教育
大阪教育大学教育学部 教授 小崎恭弘
大阪教育大学教育学部学校教育教員養成課程家政教育部門(保育学) 教授。大阪教育大学附属天王寺小学校元校長。兵庫県西宮市初の男性保育士として施設・保育所に12年勤務。3人の男の子それぞれに育児休暇を取得。それらの体験をベースに「父親の育児支援」研究を始める。テレビ・ラジオ・新聞・雑誌などで積極的に情報を発信。父親の育児、ワークライフバランス、子育て支援、保育研修など、全国で年間60本程度の講演などを行う。これまで2000回以上の講演実績を持つ。NPOファザーリングジャパン顧問。Yahoo!ニュース 公式コメンテーター。東京大学発達保育実践政策学センター研究員。兵庫県、大阪府、京都府などさまざまな自治体で委員を務める。