繊細さん「人一倍繊細な子(HSC)」が生きやすくなるために、親が知っておきたいこと

モンテッソーリやレッジョ・エミリアなど、子どもの自主性や創造性を育む『オルタナティブ教育』の第一人者である島村華子さんの連載。第五回は「人一倍繊細な子」についてです。
ちょっとしたことで落ち込む、嫌なことをいつまでも引きずる、環境の変化にうまく適応できない。そんな我が子の姿に、「神経質すぎるのでは?」「育てにくい子かも」と感じたことがある親御さんもいるかもしれません。けれど、それは「人一倍繊細な子(HSC)」と呼ばれるタイプの子どもに、よく見られる特徴かもしれません。大人だと「HSP(Highly sensitive person)」と呼ばれており、「繊細さん」と表現されることもありますが、これは、生まれもった気質によるものであると考えられており、必ずしも性格や育て方によるものとは限りません。
1. 人一倍繊細な子(HSC: Highly Sensitive Child)とは?
「人一倍繊細な子(HSC: Highly Sensitive Child)」とは、アメリカの心理学者エレイン・N・アーロン博士が提唱した概念で、周囲の刺激や感情に敏感に反応しやすい気質をもつ子どもを指します。アーロン博士によれば、全体の約15~20%の子どもがこの特性をもっているとされ、決してめずらしい存在ではありません。
このような子どもたちは、たとえば、初めての場所や人に対してとても慎重で、すぐには馴染めなかったり、場に入るのを嫌がって固まってしまうことがあります。また、大きな音や人混みに疲れてしまって急に不機嫌になることがあったり、何気ないひとことが心に引っかかって、なかなか気持ちを切り替えられないこともあります。そのため、「扱いにくい」「神経質」といった誤解を受けてしまうことも少なくありません。
けれど、こうした特徴の背景には、実は、その子ならではの魅力や強みがたくさんつまっています。「人一倍繊細な子」は、物事を深く考える力を持ち、行動に移すまでに時間をかけてじっくりと考える傾向があります。また、感受性が豊かで、場の雰囲気や人の表情のわずかな違いにも気づき、誰かが困っているとそっと声をかけるようなやさしさが見られることもあります。
2. 人一倍繊細な子の特性を正しく知る
にもかかわらず、まわりから「わがまま」「泣き虫」「気にしすぎ」と受け取られてしまうこともあり、「人一倍繊細な子」は、その良さが十分に理解されないまま過ごしていることも少なくありません。特に日本のように「みんなと同じ行動」が求められやすい文化では、その繊細さが「問題」として扱われがちです。
その結果、「人一倍繊細な子」は「どうせ分かってもらえない」「どうしてみんなと同じようになれないんだろう」と感じ、自己肯定感が低くなる傾向があります。こうした心の疲れを未然に防ぐためにも、まずは大人が「人一倍繊細な子」の特性を正しく理解し、「この子はこの子のままで大丈夫」と受け止めることが大切です。
3. 人一倍繊細な子への接し方のヒント
「人一倍繊細の子」を育てるうえで、「なぜこんなに気にするの?」「また同じことで落ち込んでる」と、親としては心配やイライラが募ることもあるでしょう。また、「自分の育て方が悪いのでは?」「将来この子は大丈夫なのだろうか」と、不安や自責の念にとらわれる方もいるかもしれません。
けれど知っておいてほしいのは、「人一倍繊細な子」の特徴は、育て方によって作られる性格ではなく、生まれつき備わった気質によるものであるということです。これは脳の感受性や神経の働きと深く関係しており、親御さんの責任ではありません。むしろ、そうした特性を理解し、やさしく受け入れてあげることこそが、子どもにとって大きな安心となり、自信を育む土台になるのです。
関わるうえでまず大切なのは、子どもの感情を否定せず、そのまま受け止めることです。「そんなことで泣かないの!」と突き放すのではなく、「怖かったんだね」「いやだったよね」と気持ちに寄り添う言葉をまずはかけてあげましょう。それだけでも、子どもは「わかってもらえた」と感じ、心が落ち着いていきます。
また、子どものペースを尊重することも大切です。新しい環境や人にすぐ馴染めなくても、それは子どもなりの慎重さの表れです。無理に急がせたり強要したりするのではなく、見守りながらそっと背中を押してあげましょう。
日々の生活では、なるべく安定したルーティンを整えることが、子どもにとって安心感につながります。とはいえ、予定の変更が避けられないこともあります。そんなときには、可能であれば早めに伝えたり、どんなことが起きるのかを具体的に説明したりして、子どもが心の準備をしやすくなるようにしてあげましょう。また、変更が急であった場合には、「びっくりしたね」「予想と違ったね」と気持ちに寄り添う言葉を添えることで、子どもは状況を受け入れやすくなります。
さらに、叱るときの伝え方にもひと工夫があるといいかもしれません。「人一倍繊細な子」は、小さな注意でも深く傷ついてしまうことがあります。行動を責めるのではなく、「どうしたらよかったと思う?」「次はどうしようか」と、一緒に考えていくような姿勢を意識してみてください。 最後に、子どもの良さを意識して具体的に伝えることも忘れないであげてください。「〇〇ちゃんが困っていることに気づいて、声をかけたんだね。よく見てたね」「相手の気持ちを考えて、自分から順番をゆずってくれてたね。ありがとう」と言葉にすることで、子どもは自分の強みを少しずつ理解していきます。
まとめ
「人一倍繊細な子」は、まわりの出来事や人の気配を強く感じ取りやすいため、日々の中で疲れやすく、生きづらさを感じることもあります。でも、その敏感さのなかには、深い共感力や想像力、細やかな気づきといった、素敵な力がたくさんつまっています。この特性を理解し、受け入れてくれる大人の存在があることで、子どもは少しずつ安心し、自分のあり方に自信を持てるようになっていきます。大切なのは、その子にとって心地よいかかわり方を少しずつ見つけていくことです。そして、親御さんは、うまくいかない日があっても、試行錯誤しながら向き合おうとする姿勢だけで十分なので、自分にもやさしくあってくださいね。
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