遊びの体験を提供できていないのは悪?「体験格差」に惑わされない、子どもとの関わりで大切なこと

遊びの体験を提供できていないのは悪?「体験格差」に惑わされない、子どもとの関わりで大切なこと

このコラムでは大阪教育大学教育学部教授の小崎先生が、「こんな時どうしたらいいの?」「子育ての“ココ”が知りたい!」という皆さんのお悩みに答えます。今回は未就学児のお子さんについてのお悩みです。

Question: ⼦どもに外遊びや友達との交流など、遊びの体験を全く提供できておらず、焦燥感と罪悪感に苛まれる⽇々です。何か⼯夫できることはありますか?

「体験格差」という言葉が、社会で注目を浴びています。子どもたちの育った環境により、さまざまな格差が存在しており、その一つとして子ども自身のさまざまな経験や体験などの差があることを指します。例えば、習い事の経験や、テーマパーク、博物館、美術館などへの来館、コンサートや野外でのキャンプの経験等の「ある・なし」の差が大きく存在していることがわかってきました。そしてこれらの体験格差が、子ども達の成長にも何かしら影響を与えるのではないかと、指摘されています。

もちろんこれらは、生活していく上で絶対的に必要なものではなく、あくまで余暇の部分であったり、QOL(生活の質)の向上を目指したりするものです。換言すれば、だからこそより大きな差になりがちなものであり、あまりこれまで意識化されてきませんでした。

今回のご相談の内容には、二つの課題があると思います。それぞれ考えていきましょう。

特別な体験や友達との関わりは、本当に必要?

課題1.体験のあり方についての認識

お子さんの遊びの体験をさせることができておらず、その内容を「外遊び」「友達との交流」としておられます。もちろん子ども達の体験は、より幅が広く多様で、質の高いものであることに越したことはないでしょう。しかし子どもの立場で考えてみると、あまりに多様すぎたり、また難しく崇高すぎたりするのも、なかなかにしんどいものではないでしょうか。

私は保育士をしていましたが、子どもたちが日常で求めているものは決して何か特別なことではなく、本当に一緒に楽しく遊んでくれる人間の存在であると思います。近所の公園で一緒に鬼ごっこをしたり、また家の中でかくれんぼしたり、カードゲームをしたりして遊ぶことが、一番楽しく充実した時間ではないでしょうか。

また、友達との関わりもとても楽しいものですが、友達と関わる力の基本は、人との関わりや安心感、信頼感です。一緒にいても緊張する、何かとても気を遣ってしまうという友達関係は、幼児には存在しませんし、それは友達ではありません。

だからまずは、ご家族と楽しい経験を共にして、人とのつながりの楽しさや温かさの実感ができれば良いと思います。その次に友達との関わりがあれば良いのであり、それはもう少し後でもよいかもしれません。

焦りや罪の意識を感じるのはなぜ?

課題2.焦燥感と罪悪感の感じ方について

そして何よりも気になるのは、親御さんの気持ちの持ち方です。「焦燥感」という何か焦ってしまう気持ちと、「罪悪感」という悪いことをしてしまっている、できないことに罪の意識があるということです。なぜこのように感じるのでしょうか。いつくかの理由があると思いますが、このように感じる時、誰かと比較してしまい自分を卑下していませんか?何に焦り、何を罪と感じていますか。

もしかすると社会一般の子育て家庭や、近所や友達の家庭の子育てと比較して、自分ができていないことやどこかに連れて行っていないことを、「悪い」ととらえているのではないでしょうか。その気持ちはよくわかります。「みんなしているのに、できているのに、うちの子どもだけができていない、させていない…」これは親としては、とても苦しむ感覚なのかもしれません。

しかし、ふとわが子を見た時に、子どもはそんなことを感じているでしょうか?先ほども述べたように、子どもたちの本当に楽しいことやしたいことは、近くの公園で思いっきり走り回り、パパやママと一緒に過ごすことです。テーマパークも楽しいことかもしれませんが、それは日常の楽しさの延長線上にあるものであり、普段の関わりや関係性もないのに、突然テーマパークに行っても本当に意味での楽しさを感じることはできないと思います。

どこかで他人と自分の子育てを比べてしまい、できていないことに「焦り」や「罪」を感じているのでしょう。けれど子育ては、何か明確なゴールや正解があるわけではありません。基本的には保護者が自分の思うように子どもと関わり、育てていけば良いものです。他人はわが子を育ててはくれません。他者との比較自体がナンセンスなものです。

家族で話し合い、子どもが楽しいことを見つけよう!

「何か工夫できること」は、たくさんあります。まず自分たちがどんな子育てをしたいのか、ご夫婦やご家族で話してみましょう。その上で、子どもがどんなことをしたいのか、何が好きなのか、どこに行きたいのかなどを一緒に考えながら、計画立てましょう。実際に行く・行かないも含めて、その過程自体がとても楽しいものになるでしょう。

また外や他者ばかりに目を向けるのではなく、家の中で、少しの時間でも一緒に楽しく遊べるように考えましょう。例えば、家の中にテントを建ててみませんか。押入れで一緒に寝てみませんか。裸でお風呂を泡だらけにしてみませんか。知恵と工夫でいくらでも楽しいことはでてくると思います。

まずは子どもと一緒にできることを楽しみましょう。子どもの笑顔の前には「焦り」も「罪」も、吹っ飛びますから。

あなたも相談してみませんか?

未就学児や小学生のいるママ・パパから質問を募集中です。小崎先生に子育てのお悩みを相談してみませんか?

ナビゲーター

大阪教育大学教育学部 教授小崎恭弘の画像

担当カテゴリー

学び・遊び・教育

大阪教育大学教育学部 教授 小崎恭弘

大阪教育大学教育学部学校教育教員養成課程家政教育部門(保育学) 教授。大阪教育大学附属天王寺小学校元校長。兵庫県西宮市初の男性保育士として施設・保育所に12年勤務。3人の男の子それぞれに育児休暇を取得。それらの体験をベースに「父親の育児支援」研究を始める。テレビ・ラジオ・新聞・雑誌などで積極的に情報を発信。父親の育児、ワークライフバランス、子育て支援、保育研修など、全国で年間60本程度の講演などを行う。これまで2000回以上の講演実績を持つ。NPOファザーリングジャパン顧問。Yahoo!ニュース 公式コメンテーター。東京大学発達保育実践政策学センター研究員。兵庫県、大阪府、京都府などさまざまな自治体で委員を務める。

学び・遊び・教育:新着記事

電子書籍

幼稚園児とママ・パパの情報誌

親子の保育園生活を応援する情報誌