時間がなくても大丈夫、親子の関係を深めるシンプルなアイデア

時間がなくても大丈夫、親子の関係を深めるシンプルなアイデア

モンテッソーリやレッジョ・エミリアなど、子どもの自主性や創造性を育む『オルタナティブ教育』の第一人者である島村華子さんの連載。第六回は「子どもと一緒に過ごす時間」についてです。

忙しい毎日でも、子どもの心に届く関わり方を考える

平日は朝から夕方まで保育園。送り迎えの合間に仕事や家事をこなし、帰宅後は夕食の準備やお風呂、寝かしつけ。週末は習い事の送迎や買い物、たまった家事であっという間に一日が終わってしまう。

「また今日も、子どもと一緒の時間がとれなかった」そんな気持ちを抱えている方も、きっと少なくないのではないでしょうか。

子どもとの時間を大切にしたいと思うからこそ、できていない現実に罪悪感や焦りを感じてしまう。でも、その気持ちは、子どもを大事に思っているからこそ生まれるものです。忙しい毎日のなかでも、少しの工夫で無理なく子どもと心を通わせられる方法を一緒に考えていきたいと思います。

「長くいること」より「どう関わるか」が大切

子どもとの時間が足りないと感じると、「もっと一緒にいるべきなのに」と自分を責めてしまうことがあります。けれど、実際に子どもの育ちに大切なのは、どれだけの時間を一緒に過ごしたかではなく、その時間の中でどう関わったかです。

3歳から18歳の子どもを対象にアメリカで行われた大規模な研究では、親が子どもと過ごす時間の長さそのものは、子どもの学力や行動、幸福感に大きな影響を与えていないことがわかりました。たくさんの時間をただダラダラと一緒に過ごすことよりも、たとえ短い時間でも、子どもにとって「ちゃんと見てもらえた」「大事にされている」と感じられような、目を見て話を聞いたり、一緒に笑ったりするような関わりの方が、心の安心や信頼につながるのです。さらに、親子で一緒に歌を歌うことやお話しをすることが、子どもの情緒的な安定や学びへの意欲、生活への満足感など、子どもの全体的なウェルビーングと強く結びついていることも、1歳から5歳の子どもを対象にした他の研究でわかっています。

つまり、毎日たくさんの時間を一緒に過ごすことが難しくても、短い時間の中でしっかりと向き合う瞬間があれば、それだけでも子どもにとっては十分に意味のある関わりになるのです。

日常の中でできるあたたかな関わり

「どう関わるのかが大切」と言われても、特別な準備が必要だったり、親自身に余裕がなかったりすると難しく感じることもあるかもしれません。けれど、ほんの少しの工夫で、日常の中につながりの時間をつくることはできます。

たとえば、お風呂に入るときに一緒に歌を歌う。保育園の送り迎えの時や寝る前に、「今日一番嬉しかったこと/悔しかったことは何だった?」「明日一番楽しみにしていることはなに?」と声をかけて、丁寧に話を聞く時間をつくる。あるいは、「わたしが子どもの頃はね…」と昔の出来事をお話のように語ってみるなど。 こんな些細なやりとりの中に、子どもだけなく、親の心もあたたかく満たされる時間があります。そして、こうした関わりの積み重ねが、親子の信頼やつながりを少しずつ育てていきます。

外遊びも、無理なく取り入れられる工夫のひとつ

なかなか平日に外で遊ぶ時間を取るのが難しい場合でも、たとえば二人親の家庭であれば、土日の午前中などにパートナーと協力し合いながら、少しでもいいので近くの公園に子どもと行ったり、お散歩をしたりする時間をつくるのも良いでしょう。

特別な準備をしなくても、自然の風にあたったり、花や葉っぱにふれたり、季節の変化を感じる体験は、子どもにとって大きな意味があります。季節によって、黄色の落ち葉を集めてみたり、ピンクの花を見つけてみたり、違うお花の匂いを一緒に嗅いで比べてみたり。空を見上げて「今日は雲が多いね」「風が気持ちいいね」と話すだけでも、自然とのつながりが生まれます。 「遊ばせなきゃ」と気負うのではなく、家族のペースに合わせて、できる範囲で外の空気を感じる時間を取り入れてみることが、子どもとの関係にも心地よい余白を生み出してくれるかもしれません。

今できることを大切に

日々の忙しさのなかで、子どもとの時間が足りていないと感じることもあるかもしれません。その思いがうまく伝わらなかったり、思うように時間を取れない現実にもどかしさを感じたりすることもあるでしょう。それでも、できることを探しながら関わろうとするその姿勢は、子どもにとってかけがえのない土台になります。たとえ短い時間でも、心をこめて過ごすひとときの積み重ねが、信頼や安心を少しずつ育てていきます。日常のルーティンのなかに、子どもと意識的に過ごす時間をちょっとでも取り入れてみると、ふとした瞬間に心が近づくような感覚が生まれるかもしれません。無理なくできることから少しずつ、そんな時間をどうか楽しんでみてくださいね。

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担当カテゴリー

学び・遊び・教育

児童発達学研究者 島村華子

オックスフォード大学修士・博士課程修了(児童発達学)。日本人で唯一の、モンテッソーリ&レッジョ・エミリア教育の二つを司る研究者。現在はカナダの大学にて幼児教育の教員養成に関わりながら、日本でも教育・子育てについて、親や教育者に寄り添ったアドバイスを発信している。著書『アクティブリスニングでかなえる最高の子育て(主婦の友社)』『自分でできる子に育つ ほめ方 叱り方(ディスカヴァー・トゥエンティワン)』『親子でできる モンテッソーリ教育とマインドフルネス(創元社)』

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