東京・遊び場探訪【天神町ぼうけんひろば@八王子市】ドイツ研修を経て見つめ直す「子どもの主体性を守る」ことの意味

「プレーリーダー」という、遊びの環境を整えてくれるスタッフを配置した子どもたちの遊び場「プレーパーク」を知っていますか? 東京都内でも多くの場所にあり、さまざまなコンセプトのもと、子どもたちの遊び体験に寄り添います。
今回は八王子市にある「天神町ぼうけんひろば」を紹介します。
子どもの頃の体験からプレーリーダーへの道へ
八王子駅から徒歩圏内、住宅街の一角にあるプレーパーク「天神町ぼうけんひろば」。滑り台やパーゴラなど、すべて手作りの遊具が並ぶこの場所で、週に1~2回、子どもたちが自由に遊ぶ姿が見られます。
運営するのは「八王子冒険遊び場の会」理事でプレーリーダーの中山涼さん。自身も子どもの頃からプレーパークで遊んできた中山さんは、今年ドイツでの研修を経験し、改めて日本のプレーパークの価値を見つめ直しました。
中山さんがプレーリーダーを目指したきっかけは、自身の原体験にあります。
「子どもの頃から八王子周辺のプレーパークや、町田、世田谷のプレーパークに親が連れて行ってくれていました。そこで楽しく遊んだ思い出があって、プレーリーダーのような職業に就きたいと思うようになったんです」
当時の八王子には常設のプレーパークがなく、イベント的な開催が主でした。「八王子でもっとプレーパークを広げていきたい」という思いを抱いていた中山さんは、その思いを共有できそうな人たちに声をかけ、2019年に「八王子冒険遊び場の会」を結成しました。
更地から始まった「天神町ぼうけんひろば」づくり

2021年に開園した「天神町ぼうけんひろば」は、近隣のお寺が所有する敷地を借りて運営されています。程近い場所にある「本立寺」の住職の理解とバックアップがあり、地域からの信頼も得やすい環境が整ったと中山さんは笑顔を見せます。
「本当に更地だったところから、森に木を切りに行かせてもらって、パーゴラや滑り台も専門の方と一緒に全部手作りしました。井戸も掘るところから始めて、半年以上かけてたくさんの協力者や子どもたちと一緒に完成させたんです」

遊具の配置にもこだわりがあります。「ちょっとドキドキできるような遊具も置きたい」という思いから、やや高めの滑り台を設置。存分に穴掘りができるスペースや、焚き火ができる環境も整えました。
八王子駅から近いこの地域は、公園はあっても整備された場所が多く、全身で季節の移ろいを感じられるような環境は限られています。「土や植物に触れ、四季の自然に関わりながら、プレーパークでしかできない遊びを経験してほしい」と中山さんは語ります。
地域とのつながりを大切に、認知度向上へ
平日の水曜日は小学生が放課後に集い、月1回開催される週末には、幼児親子も訪れる「天神町ぼうけんひろば」。そのほかにも近隣の保育園のお散歩コースとしても利用されているといいます。
開園を重ねるごとに「一緒に手伝わせてください」と声をかけてくれた子どもたちの保護者が、今では世話人やプレーリーダーとして関わってくれているそう。また、広報活動も地道に続けているそうで、今では小学校にチラシの配布を依頼することもあります。Instagramを見て遠方から訪れる親子も増えていると中山さんは言います。

「まだまだ八王子では、プレーパーク自体がまだ馴染みのない存在なので、知らない方もいっぱいいると思います。もっとアプローチできたらいいなと思っています」
また住宅街に囲まれた立地のため、ご近所への配慮も欠かせません。たき火の煙や子どもの声について相談を受けることもありますが、都度対話しながら運営を続けています。
「ちょこっとプレーパーク」で乳幼児の外遊びのきっかけに
11月からは新たな試みとして、乳幼児親子を対象にした「ちょこっとプレーパーク」を月1回開催しています。
「子どもの外遊びをどう見守ったら良いか分からなかったり、子どもとの外出にさまざまな不安を感じたりする保護者の方が、プレーリーダーがいる事で少しでも安心して外遊びを楽しめたらいいなという思いで始めました」
まだ言語の発達段階である乳幼児の外遊びは、同じ時間、同じ場所に集まる事で、大人同士のコミュニケーションも発生してより楽しめると感じたため、あえて特別な時間と内容を設けて開催しているそう。落ち葉で遊んだり、たき火で焼き芋を食べたり。まだダイナミックな遊びはまだできなくても、外遊びの第一歩としてプレーパークに足を運んでくれたらうれしいと、中山さんは言います。
ドイツ研修で見つめ直した、子どもの主体性を守ること

中山さんは今年、「日本冒険遊び場づくり協会」が文部科学省から委託を受けたドイツ派遣事業に参加しました。中山さんは、20人以上の応募者の中から選ばれた4人のうちの1人です。
ドイツのプレーパークと日本の違いは大きく、中山さんにとって新鮮な発見があったと言います。
「ドイツは専用の敷地がフェンスで囲まれていて、対象年齢も6歳から14歳と決まっています。子どもだけで来るのがメインで、保護者は基本的に中に入れません。大人が子どもの遊びを阻害する要因になりうるという考えから、子どもの自由や主体性を守るために大人を排除している部分があるんです」

また、ドイツでは社会教育士という専門資格を持つ人だけがプレーリーダーとして子どもたちに携わることができると法律に明記されているそう。そのためか、ボランティアの受け入れもほとんどないそうです。
一方、日本のプレーパークは公園などの公共空間を借りて運営され、乳幼児親子から小学生、地域の人まで幅広い世代が集います。
「日本は、自分の親ではない、ほかの子のお母さんが見守ってくれたり、近所のおじいちゃんが何かを教えてくれたりと、いろんな人がミックスされて、多世代で交流があるのが大きな魅力だと思います」
子どもの権利を尊重する姿勢を学んで
ドイツで特に印象に残ったことを尋ねると、中山さんはその中の1つに「子どもの権利条約」のポスターがあちこちに掲示されていたことを挙げました。
「子どもを権利の主体として尊重する、個人として尊重するという姿勢が徹底されていました。子どもの声を聞いて対話をする。その大切さを改めて知り、再確認できたことが大きな学びでした」
日本に戻ってからは、子どもを観察する時間をより大切にするようになったといいます。
「子どもが集中している時に邪魔をしないよう、ちょっと引いてみたり。よかれと思って『いいね』と声をかけがちなんですが、ぐっと抑えることも意識しています。ケンカも大事な機会だと思うので、ある程度は見守るようにしています」
子どもたちにとって、対等な存在でありたい

そんな中山さんに、子どもたちにとってどのような大人でありたいかを尋ねると、「子どもから声を発しやすくなる、関係性を大事にしたいと思っています。上からではなく、対等でありたいですね」と笑顔。
それと同時に保護者に対しては、見守ることの大切さを伝えているといいます。
「特に幼児の親御さんは、つきっきりでいろいろ手や口を出してしまうこともあるので、少しずつコミュニケーションを取りながら、一緒に見守ってみませんかとお話しすることもありますね」
また中山さんは現在、週1回、神奈川県横浜市内のプレーパークでも非常勤プレーリーダーとしても活動し、経験の幅を広げているのだそう。さらに日野市や町田市にあるプレーパークの講演会や講習会にも通い、研鑽を積み、人脈も広げています。
「外遊びって、特にお子さんが小さいうちは、まだ遊べるものがないと思いがちですが、落ち葉1つ、少量の土でも、年齢を問わず遊びはいろいろあります。ぜひ近隣のプレーパークに行って多くの方に体験してみてほしいですね。きっとプレーリーダーや運営の方が温かく迎えてくれると思いますよ」
自主運営で続ける「天神町ぼうけんひろば」。寄付やプレーカーでの収入を運営費に回す自転車操業ですが、中山さんは前を向いています。
「来年度、八王子駅南口の方に大きな公園ができるんです。そういうところとも関わっていけたらいいなと思っています」
ゼロから作り上げた場所で、中山さんは今日も、子どもたちがのびのびと遊ぶ姿を見守っています。
東京都八王子市天神町18-4
毎週水曜のほか、月に1〜2回土・日曜に開催(詳細は公式ホームページへ)
料金:無料
取材・文/山田朋子

























