パパだけ子連れ旅の計画術「いちご狩り“ミステリー”ツアー」へ!
旅行作家の吉田友和さんによるコラム。小学生のお子さんがいる吉田家。ママは出張が多いので、パパと子どもだけで過ごす日も。「ならば、旅をすればいい!」そんな吉田さんが語る「パパだけ子連れ旅」、今回のテーマは、パパだけ子連れ旅の計画術についてです。子連れ旅に失敗したくないママ・パパ必見!
「次のお休みはどうするの?」と長女が聞いてきたのは、冬休みが明けて間もない1月中旬のことだった。ちょうどママが出張で不在だったせいもあるだろう。
小学3年生にもなると、多少はスケジュールも意識するようになる。とはいえ、もう今週の土日の話である。直前になって週末の予定を話し合うのもいつものことだ。
「何かしたいことある?」と逆に問いながらも、実はすでに決めていた。ノーアイディアの娘が口ごもるのを見て、僕は言った。
「いちご狩りに行かない?」
「行く! ぜったい行く!」
即答だった。予想通り、食いつきがいい。次女も「うちは30こ食べるし」などと、だいぶ前のめりだ。
今回はこの「いちご狩り旅行」の話を交えつつ、パパだけ子連れ旅のプランニングについて書いてみます。どんな点に気を付けて計画すればいいか。それと、計画内容を子どもたちに、いつ、どこまで発表するかについても。
旅を企画するときのポイント
パパがきっと何か楽しいことを考えてくれる――子どもたちのそんな期待に応えたいという思いが、パパだけ子連れ旅の原動力になっている。だからこそ、どんな旅なら子どもたちが喜んでくれるか、を考えながら計画を立てている。
「計画」というよりも、「企画」といった方がいいかもしれない。どこへ行って、何をするか? 食事はどうする? お土産は? など考えるべきことはたくさんあって、企画力が求められるのだ。
楽しい旅にしたいし、失敗はしたくない。ならば、どうすればいいか。
目的をはっきりさせる
行き当たりばったりで旅するのも意外と楽しいものだが、計画性のない旅は子連れだと逆にストレスになることもある。少なくとも、「何をするか」は明確な方がいい。言い換えれば、旅の目的である。
それも、あれもこれもと欲張るのではなく、何か1つ大きなテーマを決めるやり方がおすすめだ。必ず達成したい目的を大テーマとして設定し、ついでにやりたいことを中テーマや小テーマとする。
旅行中は予定通りにいかないことだって珍しくない。最低限、大テーマだけでも実現できればよしとする、という考え方である。
今回の旅でいえば、「いちご狩り」が大テーマだ。目的が具体的なので、計画を立てやすかった。まずは農園に予約を入れることから始めた。そのうえで、移動手段や宿、食事場所などを順に調べ、手配していく。
いちごをたらふく食べることになるので、食事の時間帯が前後にならないように工夫したり。腹ごしらえを兼ねて、体を動かせるアクティビティを盛り込んだり。
目的がはっきりすると、旅の全体像が見えてくるのだ。
行き慣れた場所へ行く
いちご狩りは我が家にとって、この季節の恒例行事である。毎年必ず実施していることもあり、お気に入りのいちご狩りスポットが定まってきた。
個人的に超イチオシなのが、静岡だ。久能山の麓、駿河湾に面した一帯はその名も「いちご海岸通り」といって、無数のいちご農園が集まっている。山と海に囲まれたロケーションからして素敵なのに加え、この地域のいちご狩りにはほかにはない大きな特徴がある。
それは、ひとつの家庭につき、ひとつのビニールハウスを貸切できるということ。ほかのお客さんに気を遣う必要はないし、プライベート感たっぷり。子どもたちが騒いでも大丈夫だ。何より、ハウス内のいちごはすべて我が家だけで食べ放題というのが贅沢である。
いちごの栽培方法もユニークで、石垣のスキマにいちごが植えられていることから「石垣いちご」と呼ばれている。一般的ないちご狩りよりも、いちごの位置が低いため、未就学児など小さな子でも手が届く。
我が家では、娘が3歳ぐらいの幼い頃からここのいちご狩りに通っている。勝手知ったる場所なので、ワンオペでの旅行といっても気が楽だ。パパだけ子連れ旅に負担を感じるのなら、自分が行き慣れた場所へ行くのはありだと思う。
ママも納得できる内容にする
ひとつ懸念があるとすれば、ママ抜きでいちご狩りへ行ってママが気を悪くしないかは気になるところだった。いちご狩りは家族の恒例行事で、例年は一家そろって出かけている。「私も行きたかったな……」と、ママが寂しい思いをするかもしれない。
とはいえ、いないのだから仕方がない。ママについては別の機会に埋め合わせをするとして、いちご狩り自体は決行することにした。
もちろん、事前にお伺いを立てたことは言うまでもない。
「ママがいないこの週末、いちご狩りへ行こうかと思うんだけど」
おそるおそる切り出した。すると、
「へえ、いいんじゃない」とあっさり同意してくれ、ホッとしたのだった。
方針についての意見はいうものの、細かいプランにまでは口を出さないのはうちのママのいいところだ。いちご狩り自体に承認を得たら、あとは基本的に一任してくれる。見方によっては丸投げともいえるが、こちらとしてもその方がやりやすい。いない人間にいちいち判断を仰いでいたら、決まるものも決まらないし。
定宿にしている静岡駅前のホテルを予約し、EX予約で新幹線の座席を確保。静岡駅からいちご農園まではカーシェアで移動するので車も予約した。いずれも、詳しい手配方法は本連載の過去記事で紹介済みなのでそちらを参考にしてください。
道中の選択肢を複数用意しておく
移動手段や宿のほかには、食事をどうするかも悩みの種だ。食事付きの旅館ではなくホテルである。朝食はホテルで食べるとしても、夕食を食べる場所はできれば事前に当たりを付けておきたい。
静岡は美味しいものが多くて、たとえば静岡おでんや寿司などはこれまでもしばしば子連れで食べに行っている。けれど、今回は行きたいお店があった。「さわやか」というハンバーグ・レストランだ。
さわやかは静岡ローカルの店ながら、ネットの口コミなどで一躍有名になり、名前ぐらいは知っているという人も多いだろう。僕も単身では何度か食べたことがあるが、今回はせっかくの機会なので子どもたちに食べさせてあげたかった。
ただし、ここで問題となるのが、「さわやか」が超が付くほどの人気店であることだった。開店前から行列ができるほどで、週末なら2時間待ち、3時間待ちは当たり前。予約はできないので、当日来店して整理券をもらう必要がある。
実際にどれぐらい待つのかは、行ってみないとわからない。状況次第では、入店をあきらめざるを得ない可能性だってある。子連れの旅では、こういう流動的なシチュエーションは要注意だ。子どもたちは待つのが苦手だし、お腹が空くとさらに機嫌が悪くなる。
対策としては、あらかじめ第二候補を考えておくのがベターだろう。入店が厳しそうなら、あきらめて別の店へ行く。状況次第で予定を変更できるように、複数の選択肢を用意しておくのも子連れ旅のセオリーである。
計画内容を子どもにどこまで共有する?
今回の旅行、実は子どもたちには「いちご狩りに行く」としか伝えていなかった。どこでいちご狩りをするのかは聞かれたが、ほかに何をするのかは聞かれなかった。
というより、そもそも彼女たちはこれが「旅行」であるという認識もないようだった。「旅行」かどうかの線引きは、泊まりかどうかということのようで、「いちご狩りに行く」だけなので、日帰りだと思い込んでいるようだった。
そんな様子を見て、僕は一計を案じた。この際もう「旅行」であることはあえて言わないでおく。着替えなどの荷物はパパのリュックにこっそり忍ばせ、本人たちは軽装で出発させる。
「今日はミステリーツアーだからね」とそれとなく匂わせはしたものの、「いちご狩りに行くんでしょう?」と聞かれただけで、それ以上疑うそぶりも見せない。しめしめと内心ほくそ笑みながら、土曜の朝、家を出たのだった。
物価高騰でスーパーのいちごがだいぶ値上がりしていることもあり、いちご狩りのありがたみが増したように感じた。3人で数を競い合うようにして、貸切のハウス内にあるいちごをあらかた平らげた。
来るたびに感じるが、いちご農家の人たちは心優しい。帰り際、おみやげにと大きな大根をプレゼントしてくれた。電車で持って帰るには少々重たいが、ありがたく頂戴する。
いちご狩りのあとは、すぐ近くにある久能山東照宮へ立ち寄った。徳川家康をまつった神社で、日本平からロープウェーに乗ってアクセスするのがお決まりだ。
いちごを好きなだけ食べられるという夢の時間も終わり、そろそろ現実に引き戻されたのか、娘たちがざわつき始めた。なぜ神社へ連れてこられたのか、このあとどうするのか、いつ家に帰るのか。いまになって疑問が浮かび始めたのだろう。
頃合いかなと思い、僕は種明かしをした。今日はこのまま静岡に泊まるんだよ、と言うと、パッと目を輝かせたのは長女だった。彼女は旅行が大好きなのだ。
一方で、表情を曇らせたのが次女だった。彼女も旅行自体は好きなはずだが――はて? 話を聞いてみて、腑に落ちた。どうやらお気に入りのぬいぐるみを家に置いてきたので悲しくなったらしい。
「旅行だって知っていたら持ってきたのに! 」と涙目で抗議された。ミステリーツアー失敗。深く反省。そこまでは気が回らなかったのが正直なところだ。
今回のまとめ
その後、静岡駅まで戻ってきてホテルにチェックイン。部屋がかなり良くて、キングサイズのベッドの上を飛び跳ねているうちに次女も機嫌を直した。
子どもたちをホテルで待機させつつ、単身で徒歩圏内にある「さわやか」の支店へ整理券を取りに行った。午後4時の時点で2時間待ちで、6時頃には無事入店できたので結果オーライであった。
さわやかのハンバーグは、見た目生焼け気味の、赤味のあるレアなお肉が特徴だ(実際には生焼けではないらしい)。焼き加減は指定できるので、子ども用には「よく焼き」を頼んだのだが、試しに長女にパパが頼んだレア肉を食べさせたらそっちの方がいいという。
ぺろりと平らげた彼女は、なんとお代わりをしたいと言い始めた。せっかくここまで来たのだからと、ハンバーグをもう一皿注文。するとお店の人は勘違いしたのか、僕の前のテーブルクロスを敷き直そうとしたのだった。