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パパの育児休業をもっと取りやすく! 東京都が描く「男性の育業が当たり前の社会」への道筋

男性の育児休業取得率が5割を超えた今、東京都が力を入れるのは「育業(※)が当たり前にできる環境づくり」です。当事者やそれを支える同僚への応援手当、人事評価への反映のほか、経営トップから社員へ積極的な情報発信を促すなど、産業労働局が展開する施策は、育業を「個人の問題」から「経営戦略」へ転換しつつあるようです。「家庭と仕事の両立支援ポータルサイト」を軸にした取り組みについて東京都産業労働局の担当者に聞きました。
※育業(いくぎょう)とは…育児は「休み」ではなく「未来を育む大切なしごと」という考え方に基づき、東京都が提唱している育児休業の新たな愛称のこと
待機児童や法律改正がポータルサイト立ち上げの背景
──東京都では「家庭と仕事の両立」に関して、どのような課題認識から「家庭と仕事の両立支援ポータルサイト」を立ち上げたのでしょうか
東京都産業労働局 雇用就業部 労働環境課長 須之内理史さん:「家庭と仕事の両立支援ポータルサイト」は、もともと2015年度に「仕事と介護の両立支援ポータルサイト」として立ち上げたものが発端になっています。それを2018年度にリニューアルして、現在の形にしました。
リニューアル前年である2017年は、育児・介護休業法が2回改正もされた年。1月の改正では有期雇用労働者の育児休業取得要件が緩和され、マタハラ・パタハラが企業の防止義務に加わりました。また10月の改正では、待機児童問題が深刻化する中で、保育所に入れなかった場合に復職できないという状況を受けて、育業期間が最長2年まで延長可能になりました。
2017年前後は待機児童の問題や法律改正など、社会的に対応が求められる時代だったんです。そこでポータルサイトも時代の流れに合わせて、介護と仕事だけでなく育児も対象に加え、ライフ・ワーク・バランスをより一層意識していただけるようなサイトにリニューアルしました。
ポータルサイトには企業の好事例と体験談が充実
──このポータルサイトを通じて、どのような具体的支援を提供しているのでしょうか
須之内さん:ポータルサイトでは育児・介護・病気治療・不妊治療の4つのテーマに沿って情報発信しています。実際に企業でどのような取り組みをされているか取材して好事例を発信したり、有識者の方のコラムを掲載したり、従業員の方の体験談も掲載しています。
特に強化したのが、2023年3月から追加した男性の育業支援のページです。「TOKYOパパ育業促進企業」という登録制度を作り、男性育業取得率に応じて3種類のタツノオトシゴをモチーフにした「TOKYOパパ育業促進企業登録マーク」を付与しています。ゴールドなら取得率100%、シルバーなら75%以上、ブロンズなら50%以上という感じですね。これを企業のPRにも使っていただくわけですが、ページ開設後、登録企業数は着実に増えており、企業側の意識は高まっていると感じています。
ポータルサイトでは、従業員の育児体験制度の導入や子連れ出社など先進的な取り組みをされている企業の事例も紹介していますので、企業の経営者の方々ばかりでなく、働いている皆さんにもそういった情報をぜひご覧いただき、いろいろな企業で創意工夫した取り組みが進んでいることを知っていただければと思っています。
同僚への心理的負担に着目、最大420万円の奨励金により支援
──男性の育児参画を促す取り組みについて、どのような施策を行っていますか。また阻害要因として見えてきた課題は何でしょうか
須之内さん:東京都全体として、「育休」ではなく「育業」という言葉で、育児は休みではなく大切な仕事であるという情報を積極的に発信し、最近では言葉も徐々に広まってきています。2024年度、都内の男性育業取得率は54.8%となっており、2人に1人が育業している状況です。
ただ、女性の92%と比べるとまだまだですので、産業労働局としても、男性育業の取得率をさらに上げて、「男女問わず育業はするのが当たり前」という雰囲気を定着させたいと考えています。
産業労働局の一番大きな事業としては「働くパパママ育業応援奨励金」です。このうち「働くパパコースNEXT」は男性が育業した場合に企業に対して奨励金を支給するもので、取得日数に応じて加算され、2025年度から最大420万円の支給としています。これをぜひ活用していただき、企業として男性の育業を促していただきたい、育業しやすい雰囲気を作っていただきたいですね。

──どのくらいの企業が奨励金を活用されるのでしょう?
須之内さん:最大で420万円の奨励金が受け取れる「働くパパコースNEXT」は750社、またママの育業を対象とした「働くママコースNEXT」は400社を支援予定としています。奨励金としては非常に手厚いものになっていますので、男性の育業を進めていただく際のインセンティブとしても役立てていただいているのではないかと考えています。
また毎年実施している調査からは、育業をしたいという意識は高いものの、同僚に負担をかけてしまうという心理的ハードルがあることが分かりました。自分が休むことで、担当していた仕事を別の方にお願いすることへの心理的負担があるんですね。
この声に応え、2024年度から同僚の方の応援評価制度や、応援手当支給などに企業が取り組んだ場合の加算項目を新設しました。会社として同僚の方もサポートしていく制度を作ることで、実際に育業する方にとっても心理的な壁や負担が下がるのではないかと考えています。
「育休は男女問わずするのが当たり前」の環境づくり
──仕事との両立や制度利用をためらう方々に向けて、東京都として伝えたいことは何でしょうか
須之内さん:ポータルサイトでは、育児や介護との両立に前向きに取り組んでいる企業の取り組みや、実際に制度を利用された方の声を発信しています。ぜひ一度ご覧いただいて、世の中で育業がどんどん進んでいるんだなと感じ取っていただきたいですね。そして前向きに男性育業をしていただけるような1つのきっかけになればうれしいです。
企業向けには、社員への研修に活用できる20分程度の動画も公開しています。奨励金も含めて、東京都としてはさまざまなサポート制度を用意していますので、まずは知っていただくことが第一歩です。
やはりマインドの部分は非常に大きいんですよね。制度があっても使いづらい職場の雰囲気では意味がありません。実際に育業する人が増えれば、それが当たり前になります。今はまさにその転換期だと思っています。
──「誰もが育業をするのが当たり前の企業」ということがPRできれば、就職先を探す時にも、そのような企業により良い人材が集まりやすいという好循環も生まれそうですね
須之内さん:そうですね。子ども政策連携室の2024年度の調査でも、就活生の8割以上が「育業取得率の高さ」や「育業期間の長さ」を重視するという結果も出ています。人手不足の時代、特に中小企業の人材確保は喫緊の課題です。
事業者の方や経営者の方向けに情報を発信する際は、育業できることが当たり前の会社にしていくことは、人材確保にもつながるんですよ、とお伝えしています。
──では最後に、計画中の取り組みなど、お知らせしたいトピックスはありますか
須之内さん:2025年10月27日(月)・29日(水)に男性育業促進のためのオンラインセミナーを開催します。27日は従業員の方向けで、子育てインフルエンサーの木下ゆーきさんに講師をお願いしています。29日は経営者の方向けです。申し込みは各開催日の前日正午までですので、間もなく締め切りですが、後日オンデマンド配信も準備しています。ぜひご活用いただければと思っています。
男性育業促進のためのオンラインセミナーの申し込みはこちらから
まとめ
東京都が進める「育業」の取り組みは、男性の育業を特別なことから「当たり前のこと」へと社会の雰囲気ごと変えていくもの。働く側も「仕方がない」と諦める前に、新しく根付き始めた「当たり前」に意識をブラッシュアップして、より働きやすい環境の実現を目指したいですね。
企画・編集/&あんふぁん編集部、文/山田朋子


























