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温かいまなざしでつながり虐待を生まない社会──「東京OSEKKAI化計画」が目指すものとは

温かいまなざしでつながり虐待を生まない社会──「東京OSEKKAI化計画」が目指すものとは

増え続ける児童虐待相談。その背景には、孤立した子育て家庭の存在があります。東京都が2019年から展開する「東京OSEKKAI化計画」は、周囲の「ちょっとした気づき」と「温かい声かけ」で、困難を抱える親子の孤立を防ごうという取り組みです。あえて「おせっかい」という言葉を用いた意図とは?虐待防止に向けて、子育て世帯ができることは何か、東京都福祉局の安藤真和さんにお話を聞きました。

地域や関係機関が連携して子育て世帯を見守るために

──この「東京OSEKKAI化計画」は、どのような課題を背景に生まれた取り組みなのでしょうか。

東京都福祉局 子供・子育て支援部 家庭支援課長 安藤真和さん:「東京OSEKKAI化計画」は児童虐待の防止につなげる取り組みです。少子化が進んでいる現代ですが、児童虐待の相談件数は統計を取り始めた1990年度から今に至るまで、毎年ずっと増え続けています。

虐待は家庭の中で起きるため、児童相談所が通告を受けて関わるだけでは、なかなか解決しません。区市町村などの地域やほかの関係機関も含めた総合的な取り組みが必要です。

もともと、関係機関や地域の連携が十分にできないという課題がありました。そこで、地域全体で子どものいる家庭を見守っていこうという思いから、この計画がスタートしました。

取り組みの柱は、ホームページやSNS、イベントでのグッズ配布などを通じた広報活動ですね。虐待とは何かということから、虐待を見かけた時の対応方法、通告のための窓口などを周知しています。

また毎年11月の児童虐待防止推進月間には、「オレンジリボンキャンペーン」を展開しています。さらにFC東京やアメリカンフットボールの日本選手権「ライスボウル」とコラボレーションし、試合会場でキャラクター「OSEKKAIくん」の着ぐるみが登場するなど、親しみやすい形で普及啓発を行っています。

“孤立”が虐待を生む──些細な気付きが親子の支えに

──子育て中の家庭や保護者にとって、この計画はどのような意義がありますか?

安藤さん:どこの家庭でも子育ての課題や悩みはあると思いますが、重篤な虐待に至るケースで多いのは、やはり孤立してしまっている家庭です。相談できずに抱え込んでしまう中で、残念ながら虐待につながってしまうこともあります。

そういう時に周りの人々のちょっとした気づきや声かけが、困難を抱える親子の大きな支えや状況が好転するきっかけになることがあるんですね。第三者から見た、ちょっとした違和感。それがきっかけになることもありますから、ためらわずに声かけや通告をしていただけるとありがたいです。

通告件数の増加は必ずしも悪いことではない

──これまでの取り組みで、効果や課題として感じていることはありますか?

安藤さん:先ほど、少子化であるにも関わらず虐待の通告件数自体は増えていると言いましたが、これは必ずしも悪いということではありません。世の中の関心が高まって、今まで隠れていたものが顕在化しているという見方もできるからです。

一方で違和感をキャッチした方が、声かけや通告をする際に葛藤や不安を感じるケースは多いと思います。「他人の家庭に必要以上に入り込んでしまうのではないか」という心配から、行動に移すのをためらってしまうケースもあるのではないでしょうか。だからこそ、ほかの家庭を気にかけることは悪いことではなく、安心して行動できる社会づくりを続けていく必要があると思っています。

通告は“ちょっと気になった親子”が良い未来に進むきっかけに

──通告するかどうか迷った場合、どのように考えて行動すると良いでしょう?

安藤さん:そもそも虐待はどこの家庭でも起こり得るものなんですよね。それは家庭が悪いというよりも、孤立してしまっている状況に問題があるのです。だからこそ、地域や周りの人が気づいて関わりを持つこと自体にとても意義があるんです。

ちょっとした心配や不安をこちらに知らせていただくだけでも、私たちはその家庭を長期的に見て、必要な援助をスタートするきっかけになります。法令では通告者の情報は明かさないことになっていますから、「誰々さんからこう言われて伺いました」といった形で伝えることはありません。

躊躇することもあるかもしれませんが、気付きがあれば、不安を抱えている方への大きな手助けになると考えて、ポジティブな視点で動いていただければよいなと思います。

──もし気になるご家庭に直接声かけをしてみようと考えた場合、どのように話しかけたらよいでしょうか?

安藤さん:声をかけられる側からすると、否定的な声かけではなく、相手が頑張っていることなどから声をかけると、つながりを持ちやすいのではないでしょうか。やはり不安を相談する場合は、信頼関係がないとなかなか話をしにくいですしね。

印象に残る「OSEKKAI」という言葉選びの背景

──「OSEKKAI(おせっかい)」という言葉は、時にネガティブな印象もありますが、あえてこのネーミングを選んだ理由を教えてください。

安藤さん:確かに、従来の「おせっかい」という言葉は、望んでいないのに世話を焼かれるというイメージがありますよね。でも、課題や悩みを抱えていても、相談する一歩が踏み出せずにいる家庭もあります。ここでの「おせっかい」は従来の意味合いとは違い、そんな家庭、親子にとって力強い手助けになるという意図で、優しい心遣いを想定しています。だからこそポップなローマ字に変換して、ポジティブな意味合いで普及啓発しています。

──イメージキャラクターとの相乗効果もあって印象にも残りやすいですね。「OSEKKAIくん」というキャラクターはどのようにして生まれたのですか?

「OSEKKAIくん」など、キャラクターをあしらったクリアファイルやノート。イベントなどで配布しています

安藤さん:「OSEKKAIくん」もこの計画のネーミングと同時に生まれました。「おせっかい」の「かい」を貝と掛けてデザインしたのですが、このキャラクターを使ったポスターなども、この計画のコンセプトを都民の方に広く知っていただいて、心遣いに溢れた街にできるように、という思いで作られています。

妊娠期からの切れ目ない支援との両輪で虐待を防止

──保護者や地域住民と「東京OSEKKAI化計画」を通じて、どのように接点を作っていこうとしているのでしょうか。

安藤さん:虐待による死亡事例の半分近くは0歳児です。生まれた直後からそういう状況になりやすいということは、行政が対応するのが生まれてからでは遅いということなんですね。

そこでわれわれ福祉局では、「東京OSEKKAI化計画」と並行して、妊娠期からの切れ目ない支援にも力を入れ、妊娠届を出された時から継続的に支援していく体制づくりに力を入れています。

──孤立する家庭が生まれることを妊娠期から防止しているということですか?

安藤さん:そうですね。都独自の施策として行っているのは「こども家庭センター体制強化事業」です。昨年から国が「子ども家庭センター」という仕組みを作り、母子保健と児童相談部門が一体的に連携して妊娠出産の支援を始めましたが、そこにさらに人員配置を強化して、家庭ごとのゆとり感を具体的に確認し、必要な支援を実施しています。

家庭によって状況や悩みは千差万別です。そこでまずは、経済的、体力的、時間的、精神的、生活全般という5つのゆとりをそれぞれ10点満点で自己評価してもらいます。

自己評価でいいんです。体力は10点あるんだけど、時間的にゆとりがないんですとか。経済的に余裕がないのが悩みですとか。その採点ツールをきっかけに、例えば、時間的ゆとりがないご家庭には家事援助のヘルパーをご紹介します。経済的にゆとりがないのが悩みのご家庭には、家計のやりくりアドバイスから行政支援の紹介までを行うこともあります。

元々は2021年度から、墨田区・大田区・渋谷区・調布市で試験モデル的に始めたのですが、従来型に比べてゆとり感を感じる方が増え、産後うつの発生率も低くなるという成果が出たため、2023年度からゆとり感に着目した支援の本格展開を都内全域ではじめました。

──「東京OSEKKAI化計画」とゆとり感に着目した具体的な支援の両輪で虐待防止対策をしているということですね。

安藤さん:そうですね。個々の家庭ごとにどういう困り事があるかというところに寄り添って、信頼関係をまず作るということを大切にしています。そういう困り事を行政の立場でも相談してもらえる関係づくりを大事にしていますね。

子どもたちから相談できる窓口も

──子どもの立場からも直接相談ができるのでしょうか。

安藤さん:はい。小学校や中学校では、子どもたちに直接相談窓口を周知するプリントを配っています。寄せられる相談は家庭内のものばかりではなく、人間関係などさまざまで、いろいろ話を聞いていく中で、家庭の悩みがポロッと出てくることもあるんですよね。

誰でも気軽に困り事を相談できる環境を整えつつ、多くの方に知っていただけるような広報を続けていきたいですね。

まとめ

「東京OSEKKAI化計画」は、特別なことを求めているのではなく、ちょっとした気づき、ちょっとした声かけを大切にしているのだそう。そんな温かい心遣いの積み重ねが、孤立しがちな子育て家庭を支え、虐待を未然に防ぐ力になります。

「心遣いにあふれたまちにできるように」──そんな思いを込めて普及啓発を続けていると話す安藤さん。隣にいる親子に関心を持ち、優しい声をかけること。まずはそこから始めてみませんか?

「東京OSEKKAI化計画」詳細はこちらから


企画・編集/&あんふぁん編集部、文/山田朋子

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