子どもの汚い字は運動で直せる!? 理学療法士が教える運動で変わる「書かずに上達する方法」

こんにちは!オンライン運動教室「へやすぽアシスト」で、これまで1000人以上のお子さんの運動や発達をマンツーマンでサポートしてきた理学療法士のまさやコーチです。理学療法士として身体の動きや発達段階を分析し、子ども一人ひとりに合った「上達のメソッド」をつくることを得意としています。
今回の記事では、多くの小学生が抱える「字が汚い」という悩みの背景にある体の発達のメカニズムと、書字能力を高めるための運動遊びについてお伝えします。
「うちの子、字が汚くて読めない…」そんな悩みに隠れた発達のサイン
学校から「字が雑ですね」「丁寧に書きなさい」と言われたり、宿題の漢字練習で何度書き直しても読めなかったり…。本人も「頑張ってるのに」とイライラして、親子でもどかしくなってしまうことはありませんか?
でも安心してください。字が汚いのは子どもの「やる気」や「練習不足」だけの問題ではありません。
実は、体の使い方や感覚の発達が追いついていないことで、そもそも「きれいに書くための準備」が整っていないケースがとても多いのです。発達段階に合わせた運動を取り入れることで、書字能力はしっかり伸びていきます。
実際に、私たちが支援した9歳の男の子は、1年間のオンライン運動指導で「読めない文字」から「読める文字」が書けるようになり、テストで丸をもられる機会が増え、自信と自己肯定感が大きく育ちました。つまり、子どもの努力を責める必要はありません。「体の土台」を整えれば、書字は自然と変わっていきます。

字を書くのは、子どもにとってはとても複雑な運動
大人にとっては当たり前のように思える「文字を書く」という動作。しかし実は、子どもにとっては非常に高度な運動なんです。文字を書くには、次のような力が組み合わさって働きます。
- 姿勢を保つ力(背筋を伸ばして座り続ける)
- 目と手の協応(見たものを手で再現する)
- 力加減のコントロール(適切な筆圧で書く)
- 指の細かな動き(ペンを正しく持ち、滑らかに動かす)
- 体の位置感覚(自分の体がどこにあるか理解する)
どれか一つだけではなく、これらが同時に働いて初めて文字はスムーズに書けます。その仕組みを理解するのに重要になってくるのが体の土台を整える「発達のピラミッド」です。これらの土台がしっかり育っていないと、いくら「丁寧に書きなさい」と言っても難しいんです。だからこそ、「字の練習」の前に「体の土台づくり」がとても重要なのです。
書字能力を支える「発達のピラミッド」とは?
子どもの発達は、ピラミッドのように積み重なっていきます。

- 【第1段階】感覚の土台(触覚・固有感覚・前庭感覚)
- 【第2段階】姿勢調整・運動コントロール・ボディイメージ
- 【第3段階】協調運動・視覚運動協応
- 【頂点】読み書き・学習
つまり書字はピラミッドのいちばん上にある高度なスキルなんです。
どれか一つでも土台が弱いままだと、いくら書字練習をしても成果につながりにくくなります。

だからこそ、「字をたくさん書かせる練習」よりも「土台を整えてから書く」ほうが、子どもにとってずっと上達しやすいのです。
「発達の土台」の整え方については、前回の記事で詳しく紹介しています。
書字が苦手な子の3つのタイプ
「字が汚い」と一言でいっても、原因は子どもによってさまざまです。どこでつまずいているのかを知るだけで、サポートの方法はぐっと変わります。ここでは、特によく見られる3つのタイプを紹介します。
1つ目は、姿勢が崩れやすいタイプ

・背中がすぐ丸くなる
・頬杖をつく/椅子にだらっと座る
・書いているとすぐ疲れて集中が切れる
これは姿勢を保つ力(体幹の安定性)が未発達なサインです。姿勢調整が弱いと、体幹が安定していないため、手先の力が強く入りすぎたり、逆に力が抜けすぎたりします。
その結果、筆圧が強すぎたり弱すぎたり、文字の大きさがバラバラになったりします。姿勢が崩れやすいタイプは、バランス感覚やおなかに力を入れる感覚がつかみにくいお子さまに多く見られます。
2つ目は、力加減がうまくできないタイプ

・鉛筆をぎゅっと握りしめて書く
・紙が破れるほど強く書く
・逆に薄すぎて読めない
これは固有感覚(自分の体にどれくらい力が入っているか感じる感覚)の処理が未発達なサインです。
冒頭で紹介した9歳の男の子も、「書字が過度に力む」という状態でした。全身ストレッチや筋力トレーニングで固有感覚を刺激した結果、筆圧が安定し、文字の可読性が向上しました。力加減がうまくできないタイプは、固有感覚を鍛えることがポイントです。
3つ目は、手と目の協応がうまくいかないタイプ

・文字のバランスが崩れることが多い
・お手本を見ても同じように書けない
・書き順が混乱しがち
これは手と目の協応(目で見た情報を手で再現する力)やボディイメージ(自分の体の位置や動きを頭の中でイメージする力)が未発達なサインです。
手と目の協応がうまくいかないタイプは、視覚情報を処理しながら手を動かすことが難しいため、 頭ではわかっているのに再現できないという状態が起こります。視覚情報を処理しながら体を動かす運動遊びがおすすめです。
親御さんにお伝えしたいこと
これまでお伝えしてきたように、「書字の難しさ」にはいくつかの理由があり、決して「字が汚い」=「やる気がない」ではありません。書字の上達は、「たくさん練習すること」よりも、お子さま一人一人の体の発達に合った工夫をすることが大切です。
感覚や体の使い方が育てば、字は自然と読みやすくきれいに変わっていきます。焦らずに今回紹介したような運動遊びを取り入れながら、少しずつ「できた!」を積み重ねていきましょう。できることが増えるたびに、体だけでなく心の成長も大きく育っていきます。親子で楽しみながら、無理のないペースで続けてみてくださいね。
ライター
「へやすぽアシスト」代表コーチ/理学療法士 まさやコーチ
これまで1000人以上の子どもを対象に、延べ3000回以上の運動・発達支援を実施。特に、発達が気になる子どもや運動が苦手な子どもへのサポートに力を入れ、「できた!」という成功体験を積み重ねる指導を大切にしている。
東京パラリンピックではドイツ・ベラルーシ代表選手のトレーナーを務めるなど国際的な経験も持つ一方、現在はオンライン運動・発達支援サービス「へやすぽアシスト」の代表コーチとして、レッスンを通じて、全国の親子に「遊びながら育つ運動の楽しさ」を届けている。 株式会社フレーベル館の月刊保育絵本『キンダーブック2』(3・4歳児向け)で運動あそびコーナーを監修。さらに2025年4月号からは、明治図書出版『特別支援教育の実践情報』にて、「学びの土台を育む運動あそび」の1年間の連載を担当。




























