幼児の時期こそ要チェック 子どもの目の話
「幼稚園児は視力が発達する時期。小学生以降は近視に注意しなきゃ」なんて思っていませんか?
実は今の時期の視力不良を見逃すと、この先「見えづらい」まま暮らすことになってしまうかも。
そうならないために、今一度子どもの目の発達・健康をチェックしてみて。
イラスト/田仲由佳
「見える」人生のために視力不良を見逃さないで
私たちは暮らしの中で、五感を働かせて周囲の情報を得ています。五感の中で最も情報量が多いのは「視覚」。目からの情報は約8割と言われています。
生まれたばかりの赤ちゃんの目は、光や目の前の手の動きが分かる程度。視力は1歳で0.2、3歳で0.8、4〜5歳で1.0にまで成長し、6歳ごろに距離感や立体感も含めて両目でものを見る力の発達が完了します。
私たちは、網膜上に結ばれた像の情報を、視神経の回路が脳に伝え、脳が情報を認識することで「見える」のです(下記「見える仕組み」参照)。
実は生まれたばかり赤ちゃんには視神経の回路(下記3)がありません。視神経の回路は、生後から6〜8歳までの「視覚の感受性期」に、「網膜上にピントを合わせる」ことを積み重ねていくことで徐々に形成され、最終的には約100万本にまで達します。一方でこの時期を過ぎると、視神経は作られません。つまり、「視覚の感受性期」にきちんと「見る」ことができていないと、その子はずっと「見えづらい」まま暮らすことになってしまうのです。
現在、この視覚が発達する時期の視力不良の状態を見逃し、弱視(眼鏡やコンタクトなどで矯正しても1.0の視力が出ない)になる子どもは2〜3%、50人に1人の割合でいると言われています。
見えない状態が続くと知的学習への関心は?
はっきり見えていない状態(下記参照)が続くと、子どもは知的学習への関心が薄れ、自己肯定感を高めづらくなると言われています。また「弱視」は、子どもたちが憧れる、教師や消防士、警察官など一部の職業に就くことが難しくなる可能性もあります。
こういった視覚障がいの治療は、「視覚の感受性期」に早期から取り組むほど、高い効果が得られます。ただ、視力不良の子どもは、生まれてから“見えない状態=普通”なので、自ら視力不良だと認識できません。まずは周囲の大人が気付き、適正な治療を受けることが大切です。
見えにくい状態だと…
●よくころんだり、ぶつかったりする
●ボールがキャッチできない
●塗り絵がうまくできない
●工作がうまくできない
●本を読みたがらない
●集中力や根気が続かない
子どもの視力不良の主な原因
子どもの視力不良の代表的な原因を紹介。それぞれの症状に合わせて、眼鏡で矯正したり、手術をしたりと、さまざまな治療法があるので、眼科で精密検査を受け、原因を探りましょう。
屈折異常
ピントが網膜よりも後ろに来てしまう場合は「遠視」、前に来てしまう場合は「近視」となります。もともと子どもは眼軸(角膜から網膜までの長さ)が大人より短いので遠視の傾向があります。その場合の遠視は、成長するに従って正常になるので問題ありません。成長過程の遠視なのか、屈折性の遠視なのかを見極める必要があります。また、「乱視」は角膜の表面異常や水晶体の異常によって起こり、網膜上にピントが合わない状態です。
斜視
通常、目は両目とも見る対象物の方へ向いていますが、片方の目が対象物へ向いているのに、もう一方の目が違う方を向いている状態を「斜視」と言います。向いている方向によって、「内斜視」「外斜視」「上斜視」「下斜視」などがあります。
眼球運動異常
眼球を支える6本の外眼筋は協力しあって、回転、水平、垂直、回旋運動などが行われています。その協力バランスが崩れると、両眼の視線が一点に合わなくなり、1つのものが2つに見えるなどの症状が出ます。
目の病気
瞼(がんけん)下垂(まぶたが下がる病気)、水晶体が濁る白内障、眼圧が上昇して起こる緑内障などがあります。
近視だけじゃない!?
デジタル社会が及ぼす目への影響
動画を視聴をしたり、ゲームをしたり、スマートフォンやタブレットを上手に使いこなす子どもたちは多いですよね。小学校の授業でもタブレットが導入されるなど、デジタルデバイスはますます身近なものになってきています。一方で、それらが及ぼす子どもの目への影響について、気になっている人も多いのでは? ここでは代表的な例を紹介します。
軸性近視
スマホやタブレットなど近くのモニター画面を見続けることで、眼軸が伸びてしまいます。眼軸が伸びると、遠くを見るときに、網膜よりも前にピントがきて、ぼやけてしまいます。小さいうちからスマホなどを使用することによって、軸性近視のリスクは高まると言われています。
調節機能不良
通常、近くを見るときは、水晶体を支える毛様体筋が緊張して水晶体を厚くし、網膜上にピントを合わせます。ただ過度の緊張が続くと、毛様体筋が疲れ、調整機能が衰え、ピントを合わせることが難しくなります。いわゆる「スマホ老眼」とも言われる症状。視力検査を行うと、よく見えないときもあれば、よく見えて問題ないように思われることがあるので、要注意です。
眼球運動機能・両眼視機能の低下
本来立体的なものを、モニター画面では平面画像で見ています。「視覚の感受性期」にそういった画像を頻繁に見ていると、眼球運動機能や両眼視機能(二つの目で見てものを立体的に捉える機能)の発達を阻害してしまいます。