主体性を育てるモンテッソーリ教育が意識している「ひとつ」の合言葉
「先回りせずに待つ」、「個性を認める」、「子どもの意見を聞く」色々ある子育てアドバイス、ありすぎてどうしたら良いのかわからないという声を耳にします。そんなときにひとつだけ意識したい合言葉を紹介します。
子どもを「お手伝い」するスタンスで
子どもの主体性を育てるためのアドバイスとして「先回りせずに待つ」、「個性を認める」、「子どもの意見を聞く」などさまざまありますが、考えることが色々あって難しい…とよく言われます。そんなときには一言だけ、「子どもを『お手伝いする』スタンスでいると良いですよ」とだけお伝えしています。
ここでいう「お手伝い」とは、相手の代わりに何かをやってあげることではなく、相手が自分でできるように後方支援をするという意味です。上司やお客様を手伝う場合と違って、いま目の前の子どもができない部分だけを手伝うことです。できるようになるに従って手伝いの分量を減らしていき、ついには手を離すことこそが必要なのです。
子どもが一人の人間として自立するために必要なのは、とにかく何でも「自分でする」経験をたくさん積むことです。だから大人が無意識にやってあげていることが、子どもの経験する機会を奪っているとも言えるのです。
そもそも「主体性」とは自分の意志・判断で行動しようとする態度のことを言います。自分で選択して決める、自分の決定や行動に責任を持つ、自分なりの意見を持つ、精神的に自立する、そういう人格がこれからの社会で求められているから教育の世界でも盛んに「主体性を育てる」と言われています。
ひと昔前は(少なくとも私が子どもの頃はそうでした)、子どもは個性を発揮して自立するより、「大人の言うことを聞く」従順さが良しとされていました。これは主体性を育てることとは真逆の対応をされてきたと言えます。ということはつまり、今の子育ては親世代の私たちとはすでに世界観が違っているということ、私たちはここら辺から考え方をシフトしないといけません。
でも、つい自分が育てられたように子どもに接してしまうのは仕方のないことですね。そんなときに役に立つのは、子どもを「手伝う」と言う考え方を子育ての軸として持っておくことではないでしょうか。
社会からの要求とは別に、子ども個人の幸せを考える上でも、主体性を持つことは大切です。誰かから決められた進路を進むより、自分で選び取った人生を生きる方が遥かに幸せだと思います。さらに、主体性を尊重された子どもは、自分を肯定し、自信を持てるようになります。
自分が満足していると他人にも優しくなれます。将来的に、多様な人同士が思い合い、補い合って生きていくためには、実は個々が自立していることが必要不可欠だと思います。
話が壮大になってしまいましたが(笑)、子どもの主体性を尊重するなら、物事を大人が勝手に決めてはいけません。決定するのはあくまで子ども、大人は子どもが自分でできるようになるまでの間、一時的に「お手伝い」をしているだけなのです。
具体的な「お手伝い」の方法あれこれ
身の回りのことを自分でできるように
自立の第一歩は「身の回りのことを自分でする」。これにつきます。大体2〜3歳ごろから少しずつ始めてみましょう。具体的な方法を以下に紹介します。*「上着のボタンを止める」場合を想定して説明しています
1.親子で分業する
靴を履くにしても上着を切るにしても初めから全部自分でできる子はいません。初めのうちは大部分を大人が手伝うことになりますが、最後の一押しは必ず子どもにやってもらいます。上着のボタンなら、大人がボタンホールの近くまでボタンを持っていき、「はい、どうぞ」と子どもに押し入れてもらいます。もしくは、子どもの手を取って一緒に押し入れてもかまいません。
2.観察する
子どもが自分でやっている姿をよく見ていてください。うまくできたときはすかさず「自分でできたね!」と子どもの頑張りを認めてあげてください。「やったあ〜!」と一緒に喜んであげると、子どもは次も頑張る気持ちになります。
うまくできないときはすぐに手を出さず、しばらくは子どもの奮闘を見守りながら、どこでつまづいているのかチェックを。そろそろ限界かな、と思ったら動きましょう。やり方に問題があるなら、「こうするとやりやすいよ」と子供の手を取って一緒にやってみます。
もしかしたら、やり方以前にボタンが小さい、ボタンホールが狭すぎるなど子どもにとってやりづらい原因が見つかるかもしれません。その場合は、子どもがやりやすいようにボタンを替えるなど工夫してあげられると良いですね。
3.完璧を目指さない
子どもも疲れていたり、眠かったりで気分が乗らないこともあります。そんなときは無理せず、「じゃあ今日は特別に手伝うね!」と大人がやってあげて良いと思います。実際は「手伝う」と言いつつ全部やってあげているのですが、暗に「本当はあなたにやってもらいたけど、今日は特別」というスタンスを残した言い方をしています(笑)。急いでいるときも同じ方法で良いと思います。
秩序の敏感期である2〜3歳児は(イヤイヤ期と呼ばれたりもします)、自分の秩序感を育てていることから「自分でやりたいから手を出さないで」という気持ちと「まだ甘えていたい」という気持ちを行き来している時期です。
甘えたい気分のときだな、と思えば無理に全て自分でやらせようとせず「私がここまで手伝うから、最後は○○ちゃんがやってね」という具合に親子で分業してもいいのです。とは言え、毎日甘えっぱなしというのも困りますよね。「ここで見ているから、今日は頑張って!」「自分でできたらかっこいいな〜もうお兄さんだもんね」とやる気が出そうな言葉で子どもの気分を乗せてあげるのもいいですね。まさにあの手この手で押したり引いたりです!
子どもに選ばせる
モンテッソーリの教室では、子どもが自分でその日にやりたいことを決めています。折り紙を折るにしても、たくさんの色を用意しておき、好きな色を選べるように用意しています。
それと同じように、家庭でも子どもに選ばせる機会を増やしてください。些細なことで構いません。今日着る服はどれにする?どの本を読む?おやつはどれを食べる?初めのうちは2択でも構いません。自分で選ぶということは、実は自分の決定に責任を持つことにもつながります。
例えば、難しすぎる絵本を選ぼうとする子ども。大人目線では、こちらの絵本の方が良いのに…とわかっていることもあるかもしれません。それでもあえて子どもの選択を優先すると、自分で「これはまだ難しかったな」ということに気がつくこともあります。もしくは、難しくても絵だけでも十分楽しめるのかもしれません。
間違いを指摘しない
パズルがなかなか完成しない、明らかに間違ったピースをはめ込んでいる…そばで子どもが試行錯誤しているときには、手を出さないで見守ってみましょう。
子どものチャレンジがもう限界だな、と思ったら、「ここらへんをもう一度見てみようか」とヒントを出してあげてください。ただし、正解は教えないように。子どもが「わかった、これだ!」と自分で気がつくように手伝ってあげてください。
子ども自身の言葉を待つ
子どもに「ジュース!」と言われたら、何となく言いたいことはわかります。しかし、さっさとジュースを手渡す前に「ジュースが…欲しいのね?」と最後まで言うようにさりげなく促してください。語彙が少ないうちは「ジュースを飲みたいのかな?」と補ってあげてもいいと思います。
例えば、保育園の登園のとき、先生が子どもに「今日は元気かな?」と質問すると、すかさず横から保護者が答えているケースがありますね。これは大人が替わって答えることが習慣になっているのだと思います。細かいことではありますが、なるべく子どもが答えられるように手助けして欲しいと思います。
他にもたくさんありますが、果てしなく長いリストになりそうなので、今日はここらへんにしておきます。次回以降、また事例をお知らせします。ともあれ、今日から子育ての合言葉は「子どもを手伝う」でお願いします!