遊びに入れてもらえない小1の娘。親はどこまで介入すべき?
困ったら増田先生に聞いてみよう 放課後職員室
Q.ひとりの友達から仲間はずれにされる小1の娘。落ち込んで戻ってくるわが子に、どう声をかけたらいい?
小1の女の子です。同じ社宅の棟内に1年生女子が娘をいれて3人います。 AちゃんとBちゃんが遊んでいて、あとから娘が遊びに行くと、Aちゃんに「〇〇ちゃん(娘)はダメ。入れない」と、よく言われます。Bちゃんはおとなしい性格で、何も言いません。 Bちゃんがあとから入ってくるときは、そんなことは言いません。
落ち込んで戻ってくる娘に、どう声をかけたらいいでしょうか。娘の性格に問題があって、Aちゃんに嫌われているのかもしれない、一緒に遊びたくないのかもしれないと思うと、Aちゃんに無理に「遊んでやって」と言うのも…。Aちゃんのママに話すこともできますが、Aちゃんに無理強いするのもどうかと思います。親はどこまで介入すべきなのでしょうか?(あつさめ)
A.パーソナルスペースについて紹介します
社会心理学に「パーソナルスペース」という概念があります。これはコミュニケーションをとる相手が、自分に近づくことを許せる、自分の周囲の空間(心理的な縄張り)を指します。
縄張りですから、ここに他人が侵入してくると、人は不快感や嫌悪感を抱きます。防衛本能が働いている状態になるのです。しかし、逆に親しい相手や、好意をよせている相手であれば、容易に受け入れることができます。人は相手に応じて、その距離感を使い分けているのです。
アメリカの文化人類学者 エドワード・T・ホール(Edward Hall)は、相手との関係と距離感を以下の4つに分類しています。
【4つの距離帯】
1. 密接距離(Intimate Distance):0cm~45cm
・身体に容易に触れることができる距離
・家族、恋人など、ごく親しい人がこの距離にいることは許されるが、それ以外の人がこの距離に近づくと不快感を伴う
2. 固体距離(Personal Distance):45cm~120cm
・二人が共に手を伸ばせば相手に届く距離
・友人同士の個人的な会話では、この程度の距離がとられる
3. 社会距離(Social Distance):120cm~350cm
・身体に触れることはできない距離
・あらたまった場や業務上、上司と接するときにとられる距離
4. 公衆距離(Public Distance):350cm以上
・講演会や公式な場での対面のときにとられる距離
電車に乗った時、座席がすべてあいていたらどこに座るでしょうか? まずは、端から座りますよね。それは無意識に「パーソナルスペース」を取ろうとするからです。そのことで、自分の縄張りを守ろうとするからです。また、保育園や幼稚園で子どもたちを見ていると、特別な理由がないのに、「Cちゃんはいいのに、Dちゃんはダメ」などということがあります。理由を聞いてもわかっていないのです。Cちゃんに対しては「パーソナルスペース」が小さく、Dちゃんには「パーソナルスペース」が大きいのかもしれません。気が合うとか、合わないということも要因のひとつかもしれませんが、なんとなくの感覚で変えていることも多いのです。
この「パーソナルスペース」は、身体のまわりを取り囲む泡のような存在で、場所や相手によって変化するのです。
Aちゃんは、たぶん気が強いのではないかと思います。そのため、大人しくて、言うことを聞いてくれるBちゃんは心地よい存在であり、AちゃんにとってBちゃんは「パーソナルスペース」が小さいのです。その反面、相談者の娘さんには無意識に「パーソナルスペース」を大きくとっている可能性もあります。
こうした人間の習性というものが影響していることや、存在していることも、知ってほしくて紹介しました。小さい子どもの人間関係を見るときの、ひとつの視点として参考にしてください。
そうはいっても気になりますよね…対策を考えましょう!
「パーソナルスペース」といっても、それで納得はできないし、娘さんが仲間はずれにされているようで、気になりますよね。
まずは、Aちゃんのお母さんに伝えてみましょう。「うちの子の性格に問題があるかもしれないとも思っているのですが、AちゃんとBちゃんが遊んでいるとき、一緒に遊びに入れてもらえないみたいなのです。うちの子にどこが悪いのか伝えたいので、Aちゃんに理由を聞いてもらえますか?」と、伝えてみてはいかがでしょうか。
もし、Aちゃんが「別に理由がない」とか、「Bちゃんの方が好きだから…」と答えたとするなら、「3人で遊んだ方が、いろんな遊びができると思うよ」と、大人の考え方を伝えていくようにしていくとよいと思います。
最後の手段になりますが、仲間はずれになる「イヤさ」を教えるという方法があります。先にBちゃんと遊ぶことを繰り返してください。そして、Aちゃんが仲間に入ろうとしたときに、「Aちゃんはダメ。入れない」と言ってみるのです。きっと「なんで!」と言ってきますが、「どうしても!」と言います。2~3度繰り返したあと、「Aちゃんが私にしたことと同じことをやってみただけ…。イヤでしょう。私は3人で遊ぶのが楽しいと思うから、今度から3人で遊ぼうよ!」と提案してみるのです。
正直、この方法はいかがなものかとは思いますが、1年生の子に「相手の気持ちになって考えてみよう」と言っても難しいからです。自分が体験しないとわからないことが多いのです。できるだけ、最後の手段を使わずに解決するのがベストだと思います。
【参考文献】
『人と人との快適距離―パーソナル・スペースとは何か』 (渋谷 昌三 NHKブックス 1990)
【新刊】
新刊「子どものココロが見えるユーモア詩の世界-親・保育者・教師のための子ども理解ガイド-」(ぎょうせい、1980円)発売中。
増田修治先生 白梅学園大学子ども学部子ども学科教授。 1980年、埼玉大学教育学部を卒業後、埼玉県の小学校教諭として28年間勤務。 若手の小学校教諭を集めた「教育実践研究会」の実施や、小学校教諭を対象とした研修の講師なども務めている。 「笑う子育て実例集」(カンゼン)、「『ホンネ』が響き合う教室」(ミネルヴァ書房)など、著書多数。