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ハイハイはいつから?遅い場合練習した方がいい?ハイハイの疑問を小児科医が回答
おすわりができるようになった赤ちゃんは、やがて腹ばいに転じて、自分の興味のあるものに近づこうとするようになります。でも、後ろに進んでしまう子も。そんなハイハイの気になることを、小児科医の宮島祐さんに聞きました。
お話を聞いたのは
宮島祐さん
東京家政大学子ども学部子ども支援学科教授、学科長、同大学院教授。東京医科大学医学部兼任教授〈小児科学分野〉専門:小児神経学、臨床脳波学、発達障害。保育士・幼稚園教諭を目指す学生に特別支援教育を中心に教鞭をとりつつ、かせい森のクリニック・東京医科大学病院で発達神経外来を担当。著書『小児科医のための注意欠陥多動性障害の診断治療ガイドライン』(中央法規出版)他。
ハイハイの時期は、何カ月から?
おすわりができたら、ハイハイの準備完了!
支えがなくても一人でしっかりとおすわりができるようになり、視界が広がった赤ちゃんは、好奇心旺盛に動きたくなるもの。やがて腹ばいになって、目標に向かって移動を試みるようになることでしょう。
特に、「前に行きたい」「動きたい」という意思を明確に持っているような活発な子は、おすわりが完成する頃には積極的に動こうとするようです。
「ハイハイには、重い頭を重力に逆らって支えるのに見合うだけの背筋、腹筋などの筋力を赤ちゃんが備えていることが欠かせません。ですから、ハイハイには“腰がすわっておすわりができているかどうか”をみることが大切です。
しっかりと腰をすえて座り、両手におもちゃを持って遊ぶなどの動作ができていれば、ハイハイをする準備は整ったと考えていいですよ」
10カ月を過ぎてもハイハイしない。大丈夫?
個人差は大きいので、心配しすぎないで
ハイハイの時期の目安は、8~10カ月頃です。でも、厚生労働省の乳幼児発達調査をみてもわかるように、早い子では4~5カ月から始める子がいる一方、10カ月になってもしない子は少なからずいることがわかります。つまりハイハイができるようになる時期には幅があり、個人差も大きいのです。
「両手両足をしっかりと使うハイハイは、じつはとても高度な動きなのです。将来、体操選手になるような子は、早くからハイハイをするようになることもあるようです。
多くは、おすわりが安定した頃がハイハイの目安となりますが、神経の発達はワンポイントではありません。もし気になるようでしたら、嫌がっていないことと、安全を確保した上で、ビーチボールの上に赤ちゃんを腹ばいでのせてみるのもいいでしょう。
そのときにボールを、手のひらを開いてしっかりと抱きしめるようにつかんでいたら、自分の体を支えるため、守るための手が発達している証拠です。ハイハイが遅いと心配せずに、大らかに赤ちゃんの成長を見守ってください」
月齢別 ハイハイできる子の割合
ハイハイはいつまでするの?
ハイハイの時期は、あっという間に過ぎていきます
ハイハイは、2本の足で歩けるようになる前段階の、ほんのひとときにみられる移動行動です。早い子では9カ月頃からつかまり立ちを始め、1歳を過ぎる頃には一人歩きをするようになるでしょう。
もちろん、近くのおもちゃをとりにいくときや、遊び気分で一時的にハイハイをすることもあるかもしれませんが、2足歩行とハイハイでは、どちらが便利かは一目瞭然。赤ちゃんのハイハイの時期は、あっという間に過ぎていきます。
「大人でも、テレビのリモコンを取りに行くときに、おもわずハイハイをしていることはありませんか?それは、例えば手を伸ばせば届きそうなくらいの場所に転がっているリモコンを取るには、よつばいで進んだほうが便利だしラクだからですよね。
このように、人間は環境によって行動を変える生き物なのです。ですから赤ちゃんが、ハイハイよりも立って歩くほうが楽だし便利だと気づけば、自然にハイハイはしなくなっていきます」
ハイハイの前段階のずりばいって何?
ずりばいはハイハイの前段階。練習の必要は全くナシ
ずりばいはハイハイの前段階にあたり、多くは8カ月前後が目安です。人間の神経経路は頭頂部から下へ、中心から末端へと発達していきます。ですから、頭から一番遠い足の指のコントロールが必要なよつばいでのハイハイよりも先に、多くの場合、腕や手を使うずりばいをするようになるのです。
「ずりばいの練習は必要か、と聞かれれば、まったく必要ありませんとお答えしています。もし、ずりばいをしなくて心配な場合は、おすわりをしっかりとさせて、腰の座りを安定させてから、ママが赤ちゃんに『こちらにおいで』と誘い水をかけることをおすすめしています。
大好きなママのところに移動していきたいと思う気持ち。意思を持つことが何よりもその後の、赤ちゃんの成長をうながすのです」
ずりばいしないでハイハイする子も
ずりばいとは、ほふく前進のように、お腹を床につけて手や腕の力だけで動こうとすることです。まだ手足の筋力が十分でないうちは、手足をばたつかせるだけで前に進めなかったり、その場でクルクルと回ってしまったり、後ろに進んでしまうこともあります。
「ずりばいは、手足のバランスが未熟でも、動きたい。大好きなママのそばに行きたいという、赤ちゃんの意思の表れです。なかには、仰向けになってブリッジをするようは“背面ばい”する子もいるかもしれませんが、スタイルを気にする必要はありません。
また、ずりばいをせずにいきなり両手両足を器用に使ってハイハイを始める子もいますが、発達の様相は千差万別です。まったく問題ないので安心してください」
うちの子のハイハイの仕方で大丈夫?
ハイハイにはバリエーションがあります
英語でハイハイは「クロール」。日本語なら「自由形」で、ハイハイには定型はありません。手や腕を使って移動するずりばいも、背面ばいも、立派なハイハイです。最初、ずりばいで移動していた赤ちゃんの多くは、やがておへそを床から上げると、両手と膝、足を使ってクロスクロール(手足を交互に動かす) の“馬さんスタイル”をするようになります。
「おへそを持ち上げるには、股関節がしっかりしていることが欠かせません。そして、さらに高度な動きとして、熊歩きとも呼ばれる高ばいをするようになる子もいるでしょう。
手足を伸ばし、膝をつかずに足の裏を使って進むハイハイのことで、膝がしっかりといないとできない動きです。これができれば、神経が頭頂部から足先までしっかり届いているということ。こうなると、つかまり立ちをするのも、もう目前です」
ハイハイしないで立つ子
たとえばベビーサークルに赤ちゃんを入れっぱしにしているとします。すると、赤ちゃんは十分に動けないため、サークルの柵を利用して、ハイハイより先に腕だけの力で立ち上がるようになることもあるそうです。
「赤ちゃんは好奇心旺盛なもの。ベビーサークルに閉じ込めるより、できる限り自由に動ける環境を整えておいてあげたいものです。手足を存分につかうハイハイをこの時期にしっかりするということは、後に歩くようになって転んだときに身を守る手が、すばやく出るようになるということです。
とはいえ、ハイハイしないで立つようになっても、赤ちゃんは身を守る術は自然に学んでいくものなので、過度な心配はいりません」
シャフリングベビー
なかには、ずりばいもハイハイもしないで、おすわりの姿勢のまま移動する赤ちゃんもいます。シャフリングベビーと呼ばれる子で、歩き出すのが遅く、心配になるママ・パパも多いことでしょう。シャフリングとは、英語の「shuffle=足をひきずる」から来た言葉で、以下、4つの傾向があります。
・横抱きを嫌がる
・縦抱きを好む
・うつぶせ寝を嫌がる
・家族や親族にシャフリングベビーだった人がいる
「シャフリングベビーは、病気ではありません。多くの赤ちゃんが1歳から1歳4カ月ごろには一人歩きをするようになりますが、このタイプの子は1歳6カ月頃と、歩くのが遅い傾向にあります。
心配なときには、親族にシャフリングベビーだった人はいないか、聞いてみると安心できるかもしれません。ただし、1歳6カ月を過ぎても歩く様子が見られない場合には、小児科などに診てもらうことをおすすめします」
ハイハイの練習法はあるの?
手遊びなどで、焦らずに楽しく
ハイハイに練習法はありませんが、赤ちゃんがママの抱っこから離れて、一人で行動するようになるには、ママとの愛着の絆がしっかりと結ばれていること(アタッチメント)が基本となります。
「ママにとっても赤ちゃんにとっても楽しいのが一番です。ママの笑顔が赤ちゃんの笑顔につながるように、焦らずに楽しくやっていきたいものです。
ハイハイには手がグーではなく、パーに開くことが大事です。グーパーを楽しむ手遊びをしてもいいですし、ママの膝の上で一緒に横に倒れる動きは、やがて一人歩きするときに倒れそうになったときに手がでるパラシュート反応につながりそうです。トレーニングではなく、子どもの楽しい時間を共有するためには、おすすめします」
ハイハイ時期の安全対策
ハイハイをはじめた赤ちゃんは、本当に目が離せません。これまでゴロンと寝ているだけで動かなかったのに、一瞬で「こんなところに?」と思うようなところまで移動していることがあります。
机の四隅のガードをはじめ、階段にはかならずベビーゲートを設置しましょう。また、暖房器具のやけどの事故は、以前に比べるとぐっと減りましたが依然、注意するに越したことはありません。ストーブはもちろんですが、ファンヒーターの吹き出し口でも思わぬやけどをしてしまうこともあるので、ガードを忘れずに準備したいものです。
「赤ちゃんが移動できるようになったら、リスクマネジメントの質を上げなければいけません。子どもは思わぬことをしてしまうものということを念頭に、環境を整え、安全を確保してください。また、それはハイハイを誘うことにもつながります」
心配なときは、気軽に相談しましょう
発達に個人差はつきものです。周囲の子と比べずに、大らかに子どもの成長を見守りましょう。それでも、心配なときには気軽に相談しましょう。その際、赤ちゃんの気になる症状をスマホなどで動画に収めておくと、医師や保健師などに伝えやすく便利です。
見知らぬ場所に行った赤ちゃんは不安で泣いてしまうことも多く、ママが気になる症状をその場で伝えられないこともあるからです。以下、行政機関を中心におもな相談窓口を紹介します。
小児科
小児科専門医なら、赤ちゃんの機微を十二分に理解して相談にのってくれるはずです。できれば家の近くにかかりつけの小児科をみつけ、継続的に診てもらえると安心です。
保健センター
健康相談や乳幼児健診、保健指導などの業務を行っています。子育てに関する相談窓口もあります。
子育て支援センター
子育てに関する相談や子育てサークルの支援活動など子育て情報の提供などをおこなっています。必要に応じて、専門機関も紹介してくれます。
子ども発達センター
専門スタッフによる相談業務のほか、継続支援が必要な場合の指導もおこなっています。
この記事を書いたライター
毛利マスミさん
フリーライター&エディター。娘が幼児の頃「勉強するなら今しかない」と思い立ち、社会人学生となって臨床心理学を修める。さらに赤ちゃん好きが高じて、保育士免許も取得。中学生となった娘に「孫育てが楽しみ」と言っては、煙たがられています。