「愛着障がい」ってなに?発達障がいとの違いと「愛着形成」の基礎知識をやさしく解説【Part1】

「愛着障がい」ってなに?発達障がいとの違いと「愛着形成」の基礎知識をやさしく解説【Part1】

近年「愛着障がい」という言葉が広く知られるようになりました。愛着に問題のある子の行動が、発達障がいの子どもの特徴とよく似ていることから「もしかしたらうちの子って、愛着障がいなんでしょうか?」、「愛着障がいにならないか心配です」という相談をいただくことがあります。今回は、愛着障がいについて知る上で大切な「愛着形成」について、スクールカウンセラー、発達凸凹コンサルタントの立場から、わかりやすくお伝えします。

似ている?愛着障がいと発達障がい

愛着障がいの特徴の一部は、発達障がいと似ているものがあります。たとえば、コミュニケーションのトラブル、物忘れ、集中力の欠如や衝動性などです。

もっと具体的には

・誰にでも抱きついたり、人との適切な距離感が保てない
・じっと座っていることが難しく走り回る
・「自分にはできない」とすぐに諦めてしまう

などです。

これらの症状だけを見ると、確かにADHD(注意欠如・多動症)やASD(自閉スペクトラム症)の特徴と似ていますよね。しかし、愛着障がいと発達障がいは、その原因や背景に大きな違いがあります。

まず、愛着障がいは、育つなかで愛着をうまく結べなかったという後天的な要因によって引き起こされるものです。一方、発達障がいは生まれつきの脳の機能の偏りによるものです。

ここまで聞くと、「自分の育て方や関わりで、愛着障がいになってしまうの?」とか「大きくなったら手遅れなの?」と、不安な気持ちになってしまうかもしれません。でも大丈夫です。当てはまる行動があるからといってあわてる必要はありません。愛着は、いつでも誰とでも結び直すことができるのです。

そもそも、愛着ってなに?

愛着障がいの「愛着」とは、自分だけの力で獲得するものではなく、他の人との関わり合いのなかで形成されるものです。特定の誰かとの間にできる「心と心のつながり」や「絆」というと、イメージしやすいかもしれません。

ちなみに、特定の誰かとは、母親に限りません。家族の形が多様化する今の時代、父子家庭であれば父親としっかり愛着形成がされていればOKです。両親不在の環境で育った子どもや施設で育つ子も、養育者や施設の職員と安定した信頼関係が築けていたら愛着が形成されます。愛着の絆がしっかりと築けていると、社会の中でたくましく生きていくことができます。

愛着形成が阻害されるとき

では、どういう時に愛着の形成がうまくいかなくなってしまうのでしょうか。3つの段階に分けて説明します。

軽度

・親の出張など長期不在
・子どもの長期入院

親や養育者との物理的な距離が生まれるとき。直接関わる機会がなくなるので、愛着が結びづらくなります。

中等度

・継続的な親優先のライフスタイル
・子どもの発達特性

先ほどの物理的な距離より、親子の心理的な距離は愛着の形成にとって大切です。親が、子どもよりも自分自身を優先し続けていると、子どもは親の行動に振り回され、安心感を感じられなくなります。

また、子どもの発達特性によるコミュニケーションの難しさから、愛着が結びづらいこともあります。

重度

・ネグレクト
・子ども虐待

育児放棄や精神的・身体的な虐待が行われる環境は、子どもの安心がおびやかされる状態で、愛着が形成できません。

このように、育ちの過程で愛着形成ができないと、困った行動を繰り返したり、人とうまく関係性を築くことができないというループにはまってしまうのです。

愛情不足だから愛着障がいになるの?

これはよく勘違いされていることですが、愛情不足=愛着障がいではありません。実は、親が愛情を与えたか与えていないかは関係ないのです。どれだけ愛情をこめていたとしても、愛情を感じるしくみが子どもの中に育っていなければ、行き違いが起きてしまいますよね。

また、愛着が形成されないのは、親の育て方や、愛情のかけ方のせいではありません。

そして、愛着障がいになったとしても、特定の誰かとしっかりと愛着が形成できれば、困った行動は消えていくのです。幼いときしか愛着が形成できないということはなく、大人になっても愛着は結ぶことができるということは、とても大切です。

では、親の愛情が一方通行にならず、子どもとしっかり愛着を結ぶためには、どうしたらよいのでしょうか。詳しくは、次回の投稿でお伝えします。

ナビゲーター

公認心理師・スクールカウンセラー・発達凸凹支援コンサルタント西木 めいの画像

担当カテゴリー

子どもの健康・発達

公認心理師・スクールカウンセラー・発達凸凹支援コンサルタント 西木 めい

大学教育学部(特別教育専攻)卒業。小学校の通常学級の担任を8年、特別支援学校(小学部) の担任を5年、自治体の就学支援委員会(就学相談)の調査員、特別支援教育コーディネーターを経験。
「優秀な同僚の先生たちが、保護者と揉めて心を病んで、どんどん学校を辞めていく現状」を見て、専門職であるスクールカウンセラーになることを決意。現在は、小学校と中学校のスクールカウンセラーとして、親子や先生のカウンセリング、学校内の環境調整のコンサルティング、不登校や登校しぶりの再登校のサポートなどを行う。
一方で、SNSを通じた「発達凸凹支援コンサルタント」として、これまで2300人以上のママ・パパ、先生のお悩み解決コンサルを行いながら、発達凸凹っ子のママや、子どもの不登校・登校しぶりに悩むママに向けたオンライン講座、小学校の保護者100名以上が集まる子育て講演会などを開催。特別支援教育が「教育の一番の根本」であることを啓発している。2児の母。著書に『発達障害のある子を支える担任と保護者の連携ガイド 』(明治図書)がある。

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