なぜ乱れた言葉を使うの?思いやりの心を育む言葉遣いの導き方
読者アンケートによると、「子どもの言葉遣いが乱れている」と感じている人は約7割。
園の先生も園児の言葉遣いの乱れを感じているようです。そこで、丁寧な言葉遣いに導く方法を専門家に教えてもらいました。

Question 子どもの言葉遣いが 乱れていると感じたことは?

幼児期は言葉の吸収時期
耳で聞いた言葉を学習
幼児期は多くの言葉を吸収する時期で、3歳で1000語、4歳で1500語、5歳で2000語程度の語彙数になると言われています。言葉は自動的に生成されるわけではなく、学習して身に付くもの。幼児期は目よりも耳からのインプットがメインのため、親や先生などの大人、友達、テレビなどのメディアの三つが主な学習元となります。最近ではYouTubeの影響もあり、メディアからの学習が強まっているように感じます。
丁寧な言葉を身に付け思いやりの心も育もう
言葉を学ぶ過程で乱れた言葉を覚えて使い始めるのもこの時期。子どもが乱れた言葉を使う理由は大きく二つです。一つは相手の注意を引きたいから。もう一つは乱れた言葉は攻撃的な感情と連動しやすいからです。
乱れた言葉の代わりに丁寧な言葉が使えるようになると、望ましい語彙が増えて、国語力が身に付きます。また、攻撃的な感情をコントロールできるようになり、自制心も備わります。言葉は重要なコミュニケーションツール。丁寧な言葉を使うことは、他者への思いやりの心を育むことにもつながります。
丁寧な言葉遣いに導くためには?
子どもが乱れた言葉を使ったとき、その場でできることは実は少ないもの。
丁寧な言葉を使えるようにするには、日頃から大人が意識を変えることが重要です。
接する大人が丁寧な言葉を使う

「子どもには丁寧な言葉を使っているから大丈夫」と思っていても、例えば夫婦間やママ友同士など、子どもに直接話しかけていない会話ではどうでしょう。とっさに出る独り言も子どもは聞いているもの。子どもの耳に入る言葉は全般的に丁寧な言葉を使うようにしましょう。また、例えば子どもが騒いでいるところを親が「静かにして」と大声で叱っても、親の言葉と行動が伴っていないと、子どもは言葉をうまく学べません。行動や態度と言葉がかけ離れていないかも意識するといいですね。
望ましい言葉を使えたときは褒める
乱れた言葉を使う子どもも四六時中使っているわけではなく、落ち着いて過ごしている時間もあるもの。親はつい「乱暴な言葉!」とそちらに目が行ってしまい、落ち着いている時間を見落としがちです。望ましい言葉が出たときは、「丁寧な言葉を使えたね」「『ありがとう』がすぐに言えていいね」などと褒めてあげて。すると子どもは「これがいいんだ」と認識でき、丁寧な言葉が身に付いていくでしょう。
視聴するコンテンツを管理する
乱れた言葉を家庭でも園でも使っていないとしたら、テレビやYouTubeなどのメディアから学習している可能性は大きいでしょう。おそらく心当たりのあるコンテンツがあると思うので、それらを遠ざけることは大事。「YouTubeは見ちゃダメ」とメディア全てを禁止するのではなく、見ていいコンテンツと見てはいけないコンテンツを親が判断し、管理するのも手です。
丁寧な言葉に言い換える練習をする

乱れた言葉を使ったその場で丁寧な言葉に言い換えさせるのは難しいもの。落ち着いている状況で、例えば人形を使ったごっこ遊びなどを通じて練習をするのがおすすめです。親の使っている人形に乱れた言葉を言わせ、子どもの人形に丁寧な言葉に言い直してもらうような展開を作って。人形を使うことで子どもも状況を客観的に見ることができ、人形になら「その言葉はよくないよ」と注意もしやすくなります。
乱れた言葉が出たときの対処法
日頃からケアをしていても、乱れた言葉はどうしても出てしまうもの。
その場ではどのような対応を取るとよいのでしょうか。
乱れた言葉を使った理由を見極める

冒頭でも触れましたが、乱れた言葉を使う理由は「注意を引きたいから」「攻撃的な感情と連動しやすいから」の二つ。親は子どもがどちらの理由で使ったのかを見極め、状況によって臨機応変に対応していく必要があります。例えばズボンを履かせて欲しくて「履かせろ」と言った場合。ちょっとふざけた口調で使ったなら「そういうときはなんて言うんだっけ?」と言い換えさせられますが、イライラしながら使ったときにその場で言い換えさせようとするとさらにイライラがエスカレートしてしまう場合も。乱れた言葉を丁寧な言葉に言い換えさせることは一つの手段ではありますが、状況によっては逆効果になる可能性があることも心得ておくといいでしょう。
【注意を引きたい場合】
親が感情を乱さない
子どもが注意を引くために乱れた言葉を使った場合、親がその言葉に感情を乱してしまうと、子どもにとっては「注意を引けた」と作戦成功になってしまい、さらに繰り返す要因にもなります。例えば子どもがあなたのことをふざけて「お前」と呼んだ場合、「お前じゃないでしょ!」と感情的になるのではなく、「ママは『お前』じゃないよ」と冷静に答えてみて。子どもは注意を引けないことを学び、次第に使わなくなっていくでしょう。
【感情と連動している場合】
子どもが感情をコントロールできるように促す
自分の思い通りにならないときなどに、攻撃的な感情に乗せて「うるさい」「あっち行け」「ばか」などの乱れた言葉を使ってしまう場合、丁寧な言葉に言い換えさせるなどして、これらの言葉だけを使わせないようにしてもうまくはいかないもの。感情のコントロールができるようになればこれらの言葉を使う機会もなくなり、必然的に乱れた言葉を使わなくなっていきます。感情のコントロールを練習するには、例えばかんしゃくを起こして乱れた言葉を使っていたけれどやがて収められたら、「我慢できてえらいね」「この前よりもすぐに泣き止めたね」などと、よくできたことを拾って褒めてあげて。かんしゃく自体がなくならなかったとしても、感情のコントロールができたことに気付ければ、より前向きに取り組んでいけるようになります。
言葉遣いにまつわる困りごとQ&A
読者から多く寄せられた言葉遣いにまつわる困りごとについて、佐藤さんにアドバイスをもらいました
Q .使っていい言葉とダメな言葉の線引きはどうしたらいいでしょうか? (年少・未就園児のママ)
A.「自分がその言葉を言われたらどうか」を基準にしてみて。言われて不快になる言葉は、ほとんどの人に共通しているはずです。また、自分の身に置き換えることで「その言葉の代わりにどんな言葉を使ってもらえると良かったのか」も考えやすくなり、子どもに言い換える言葉を伝えやすくなります。
Q .食べ物がおいしいときなど、何でも「やばい」と言います… (年中・未就園児のママ)
A.「やばい」は「問題だ」「危ない」などが本来の意味ですが、最近では「すごい」「おいしい」などの意味でも乱用されていますね。何でも「やばい」を使っていると語彙が一つになってしまうので、正しい語彙を引き出す取り組みを。例えば子どもが「おいしい」の意味で「やばい」を使ったら、「おいしくなかった?」と想定している言葉を否定形で言ってみて。すると子どもは「違うよ、おいしいってことだよ」と発語でき、正しい語彙に導けます。

Q .乱暴な言葉を使う友達との関わりは避けるべきか悩みます (年長のママ)
A.「悪影響のあるコンテンツは遠ざける」とお伝えしましたが、友達の場合は対応に悩みますよね。本当にその友達が悪影響を与えているのか、与えているとしたらどの程度の影響を受けているのかは親では分からないので、「あの子と仲良くするのはやめて」と遠ざけるのは賢明ではありません。園での様子をよく分かっている先生に「最近子どもが乱暴な言葉を使うのですが、園では何か問題になっていませんか」と相談してみるのがいいでしょう。
イラスト/ひしだようこ