たくさん経験させるほどいい? 子どもの世界を広げるために本当に大切なこと

子どもの世界を広げるために、たくさんの経験をさせてあげたい。でも、特別なお出かけや習い事だけが「経験」ではありません。着替えや挨拶、買い物など、毎日の暮らしの中にも成長の機会はたくさんあります。子ども自身が世界へ一歩を踏み出すために、大人ができることを考えます。
「子どもには、小さいうちからいろいろな経験をさせてあげたい」。そう考える保護者の方は多いと思います。いろいろな場所へ出かけたり、さまざまな人と出会ったり、習い事に挑戦したり。子どもの世界を広げるために、できるだけたくさんのものに触れさせてあげたいと思うのは、とても自然なことです。
もちろん、新しい場所へ行ったり、知らなかったものに出会ったりすることは、子どもにとって貴重な経験になります。でも、「たくさん経験すること」と「子どもの世界が広がること」は、必ずしも同じではありません。特別な経験を増やす前に、まず大切にしたいのが、毎日の暮らしの中にある小さな経験です。
子どもの「経験」は、日常の中にもたくさんある
子どもの経験というと、旅行やイベント、習い事などを思い浮かべるかもしれません。でも、子どもは普段の生活の中でも、毎日たくさんのことを経験しています。たとえば、身の回りの人に自分から挨拶をする。お店で欲しいものを「これください」と伝える。何かをしてもらったら「ありがとう」と言う。わからないことを尋ねたり、困ったときに「手伝って」と助けを求めたりすることも、大切な経験です。
大人にとっては何気ないやり取りでも、子どもにとっては、自分から外の世界へ働きかける機会です。自分の言葉が相手に伝わり、相手から返事が返ってくる。「自分で言えた」「ちゃんと伝わった」という小さな経験を重ねることで、人や社会と関わることへの自信も少しずつ育っていきます。

「自分のこと」を少しずつ子どもに手渡していく
家庭の中にも、子ども自身に経験してもらえることはたくさんあります。たとえば着替えなら、最初から最後まで大人がするのではなく、ズボンを途中まで履かせたら、最後に引き上げるところは子どもに任せてみる。靴下も履くところを手伝ったら、最後は自分で引っ張り上げてもらう。全部できなくても、「ここならできそう」という部分を見つければよいのです。
自分の荷物を自分で扱うことも、そのひとつです。できる範囲で自分の荷物を持つ。家庭の中に荷物の置き場所を決めておき、帰ったら自分でそこへ置く。出かけるときには、そこから自分で取り出して準備する。こうした小さなことでも、「これは自分のもの」「自分で準備する」という経験になります。
大切なのは、急に何でも一人でできるようにすることではありません。今はまだ大人の助けが必要でも、いつかは自分ですることなら、その中の一部分から少しずつ子どもへ手渡していくことができます。子どもだから何でもしてもらうのではなく、できる範囲で一人の生活者として扱っていくことも、自立への大切な一歩です。

守ることと、全部代わってあげることは違う
子どもが安心して新しいことに挑戦するためには、「困ったときには助けてもらえる」という安心感が必要です。ただ、安心できるように支えることと、子どもがすることを大人がすべて代わってあげることは少し違います。
子どもが答える前に大人が答える。困る前に手を出す。人とのやり取りはいつも大人が代わる。失敗しそうなら、失敗しないように先回りする。どれも子どもを大切に思うからこその行動ですが、それが続くと、子ども自身が「やってみる」機会は少なくなってしまいます。
「もっと積極的になってほしい」「いろいろなことに挑戦してほしい」と思ったときこそ、何か新しい経験を増やすだけでなく、普段の生活を振り返ってみるのもよいかもしれません。大人がしていることの中に、そろそろ子ども自身に任せられることはないでしょうか。
特別な経験は、日常の土台があってこそ
旅行へ出かけることも、習い事を始めることも、さまざまな人と出会うことも、子どもの世界を広げてくれる素敵な経験です。ただ、その経験を子ども自身のものにしていくためには、普段の生活の中で「自分でやってみる」「自分で選ぶ」「自分から伝える」という経験を重ねておくことも大切です。
日常の中でそうした経験を重ねていると、新しい場所へ行ったときにも、ただ大人についていくだけではなく、「見てみたい」「やってみたい」「聞いてみたい」と、自分からその経験に関わることができるようになっていきます。大人が用意した世界をただ受け取るのではなく、子ども自身がそこへ手を伸ばしていくのです。
子どもの世界を広げるために、今日からできること
子どもの世界を広げるために、特別な予定をたくさん増やさなくても大丈夫です。今日の着替えで、最後のひと動作を任せてみる。自分の荷物を自分で持ってみる。近所の人に挨拶をする。買い物のときに「これください」と自分で伝えてみる。そんな毎日の小さな出来事も、子どもにとっては立派な経験です。
大人がたくさんの世界を見せてあげること。そして、子ども自身が世界へ手を伸ばす力を育てること。その両方があって、子どもの世界は少しずつ、その子自身のものとして広がっていきます。
まずは日常の中にある「これは自分でできそう」をひとつ見つけて、子どもに手渡してみませんか。そこから始まる小さな経験も、子どもがこれからもっと広い世界へ出ていくための、大切な土台になっていくと思います。
ライター
モンテッソーリ教育 堀田はるな
モンテッソーリ原宿子供の家 南青山校(東京都港区)、モンテッソーリすみれが丘子供の家(横浜市)勤務。モンテッソーリ教師・保育士。日本モンテッソーリ協会認定モンテッソーリ教員免許取得。
モンテッソーリ教師として8年間、2〜6歳の子どもの保育・教育に携わり、一人ひとりの発達に合わせた環境づくりと、自立を支える保育を実践している。保護者向けセミナーでは、モンテッソーリ教育や乳幼児の発達、家庭でできる環境づくりについて講師を務めるほか、Webメディアで子育てや幼児教育に関する記事を執筆している。
前職ではアパレル、EC、金融業界でマーケティング業務に従事。異業種で培った「伝える力」と、教育現場での実践を生かし、専門知識を保護者にも分かりやすく伝えることを大切にしている。著書に『子どもの才能を伸ばす最高の方法 モンテッソーリ・メソッド』。
























