「食べさせなきゃ」を手放そう!モンテッソーリ流・子どもが自分で食べる環境づくりとは?

おうちの方の「がんばって食べさせなければ!」という気持ちをゆるめ、食事の時間を楽しくするには、モンテッソーリ教育の視点が役立ちます。
自ら食べる力を育む方法を、親子料理教室を主宰する石井先生に聞きました。

※この記事は小学館「ベビーブック2026年8・9月号」の内容を掲載しています

教えてくれたのは

石井由紀子先生の画像

石井由紀子先生

神戸大学教育学部卒業。2008年より親子料理教室こどもキッチンを主宰。これまでの参加者は大人と子どもをあわせ2 万名以上。モンテッソーリ教員有資格者。一男二女の母。

子どもは生まれながらにして 自分で自分を成長させる力がある

モンテッソーリ教育では、子どもは生まれながらにして自分で自分を成長させる力を備えていると考えます。たとえば、生まれた瞬間、赤ちゃんは胎内とは全く違う環境に置かれます。唯一、知っているのはお母さんの匂いや声だけ。赤ちゃんの筋肉はまだ発達していませんが、お母さんの声がするほうを向こうと自分の意志で体を動かすことで自らの発達をうながしていくのです。初めて歩く瞬間も、子どもは「今だ」と自分で決めて初めの一歩を踏み出します。子どもは、「大人が教え込んだからできるようになる」のではなく、身の回りの環境と関わりながら自らの力で育っていくのです。食事に関しても、大人は「子ども自身が食べたくなる環境」を整えることが重要です。

食欲のサイクルを理解しましょう

人間の食欲は、「おなかがすく」→「食べる」→「満腹になり食べるのをやめる」→「からだを動かす」→「おなかがすく」という本能的なサイクルに基づいています。大人は空腹でなくても「今、食べておかないと後で困る」と考えて食事をすることもありますが、子どもはおなかがすいていないときに無理やり食べさせようとしても食べられません。一方で、十分にからだを動かせば、おなかがすいてたくさん食べるものです。

食事中に椅子から立つのは「満腹」のサインなので、育児書などの食事量の目安にとらわれず、目の前のわが子の食欲をよく観察しましょう。「食べてくれない」と悩んだときは、空腹感を感じられるように生活リズムを整えることが改善の第一歩になります。

「子ども」をどうとらえるか

〈一般的な考え方〉

子どもは自分では何もできない「からっぽの器」のような存在なので、大人が知識などを一方的に詰め込まなければならない。子どもは大人が「教え導く」対象だととらえる。

〈モンテッソーリの考え方〉

子どもは周囲の環境や大人たちと関わりながら、自ら育つ力を持つ主体的な存在である。
大人は「子どもが自分でできる環境」を整え、子どもの自発的な活動を支える役割を担う。

まずは「食べる」を身近に 台所しごと

子どもの「敏感期」に適した体験を

敏感期とは、「ある特定の物事に特に興味や関心が大きく開く時期」のことをいいます。言語、運動、五感など、さまざまな敏感期があります。たとえば、運動の敏感期にいる子どもは、「泡立て器で混ぜる」など大人が台所でしている「動き」に興味がわき、大人のまねをしたがります。また、五感の敏感期の子どもは、においをかぐ、触る、味わうという体験をやってみたくなる時期です。

このように、敏感期の子どもにとって、台所はとても魅力的な場所なので、子どもが「やりたい!」と思ったタイミングで台所しごとの環境を整えましょう。食材との触れ合いは、食への興味や、将来的に食べることが好きになる土台にもなります。

道具や食器は「本物」を使う

道具や食器は、子どもの手の大きさに合う「本物」を用意しましょう。陶器やガラス製の食器に触れ、世の中には割れる素材もあると知ることは、物を丁寧に扱う貴重な体験になります。将来、包丁を使い始めるときも、切れにくく加工されているものより、よく切れる本物で練習したほうが、危険なものを安全に扱うコツが身につきます。

子どもと台所しごとを楽しむコツ

3歳ごろまでの子どもは「敏感期」を背景に、「混ぜるだけ」といった特定の動きの獲得を目指して台所にやってくることがあります。作業に夢中になって終わりにしないときは、子どもが納得するまでやらせてあげ、その日の分はおうちの方が別に準備して料理を完成させましょう。子どもの分は翌日の料理に回すのでかまいません。

「見たい!」ときは

おうちの方の台所しごとの様子を「見る」体験が「あれをやりたい」という欲求につながります。ベビーゲートをはずして、キッチンの安全な場所に子ども用の踏み台を置き、「ここでなら見ていていいよ」というスペースを用意しましょう。

「指先でつまみたい!」ときは

きゅうりやキャベツなどに塩を振る作業を任せてみましょう。おうちの方が小皿に粗塩を盛り、親指と人差し指で「塩少々」、親指・人差し指・中指の3本の指で「ひとつまみ」をする体験をさせてあげるのがおすすめです。

「注ぎたい!」ときは

子どもの手のサイズに合うピッチャー(水差し)に「コップに注ぎ切ったらちょうどになる量」のお茶や水を入れ、自分でコップに注げる環境を整えます。「こぼしたら、これでふいてね」と、台ふき(布巾)も近くに置いておくとスムーズです。

「たたきたい!」「ちぎりたい!」ときは

蒸したじゃがいもをマッシャーでつぶす、きゅうりをすりこぎでたたく、レタスやキャベツや焼き海苔を手でちぎる作業などがおすすめです。

「水を使いたい!」ときは

キッチンの流しの前に踏み台を置き、野菜を洗う作業を任せると、水の感触を楽しみながら夢中になって取り組めます。大人用のスポンジを半分にカットして、子どもが自分で使ったスプーンと皿、コップを洗う係を任せるのもよいでしょう。

【実例エピソード】10分以上かけてオレンジ洗いに集中

母親の真似をして、オレンジを洗い続けた2歳6か月の女の子。10分続けたところで「わかった」とつぶやいて作業を終えました。自分に必要な感覚を獲得した実感から出た一言です。

「味を知りたい!」ときは

5歳ごろにかけて味の違いを識別する感覚がピークに向かう時期には「味を知りたい」という気持ちが高まります。「味見する?」の誘いに応じるようなら、少量でよいので用意してみましょう。いろいろな味の体験は、味覚の成長にもつながります。

【実例エピソード】食欲はなくても味見には夢中!

食の細い3歳2か月の男の子も味見は大好き。味覚の敏感期の「知りたい」欲求は食欲とは別物。味見をお願いすれば、多様な食材を口にするきっかけになり、食への関心を広げられます。

「自分で食べる!」 を支える環境づくり

おなかをすかせて「いただきます」を

運動不足のほか、間食も子どもの食欲を減少させます。ウエハース1かけら程度のわずかな量でも影響は絶大です。食事と食事の間に「ちょこっと何かを食べる」のを控えてみると、ぐんと食欲が増すこともあります。また、子どものおやつは4食目の「ごはん」です。ジュースや甘い「お菓子」ではなく、おにぎりなど「ごはん」になり得る何かを提供するとよいでしょう。

食卓には食べきれる量だけを出す

子どものお皿には「食べ切れる量」を盛り付けましょう。「足りないときはおかわりしてね」と伝え、最初は「少なすぎるかな?」と思う量から始めるのがコツです。「全部食べられた!」という達成感が食べる意欲につながります。

【実例エピソード】「これだけでいいの?」と笑顔になって完食!

食事の量にプレッシャーを感じていた男の子。食べ切れる量にすると、「これだけでいいの?」と笑顔で完食。食べ切った体験は自信になり、食べることが楽しくなるきっかけになります。

おなかいっぱいになったら 「ごちそうさま」を

食事を始めてしばらく経って遊び食べが始まったときや、口には入れてもなかなか飲み込まなくなったときは、「おなかいっぱい」のサインです。「ごちそうさま」をして食事を切り上げましょう。子ども自身の「満腹感」を尊重することで、子どもは「おなかいっぱいになったら食事は終わり」であることを体験できます。食べ過ぎない習慣を身につけることは、健康な食生活の基本になります。

【実例エピソード】期待に応えようとして無理してしまうことも

母親に食べさせてもらっていた男の子。時間が経つと歩き食べを始め、口に入れたものを吐き出すように。「おなかすいてるの?」と聞くと首を横に振りました。無理して大人の期待に応えていたのですね。

「いずれ食べられるようになるだろう」と気長に構える

幼児期に「口に入れた」経験のあるものは、今は苦手でも、大人の味覚に切り替わる思春期ごろには食べられるようになることがほとんどなので、苦手な食材も食卓に並べ続けましょう。おうちの方自身が「おいしそうなふり」をするのではなく、心から「おいしい」と感じながら食べる姿を見せていくことが大切です。

石井先生からのメッセージ

「子どもをどう観るか」を変えると、食事が豊かな時間に変化します

子どもはいつの時代も「自立しよう」と懸命に今を生きています。食事に関しても、基本的にはおなかがすいたら自分で食べるので、大人は子どもが「おなかがすいて食べたくなる」環境を整えればよいのです。

私たち大人の義務は、「子どもが大人になったときにこれを食べていたら元気でいられるだろう」と思うものを食卓に出すところまでであって、それを食べるかどうかは、子ども自身の仕事です。子どもを「食べさせてあげる対象」ではなく、一人の「意志ある主体」として観るようになると、おうちの方の行動が変わり、結果的に食事が豊かな時間に変化していきますよ。

イラスト/はったあい デザイン/平野 晶 文/安永美穂 構成/ KANADEL

8・9月号はベビーブック初の激推しふろく、アンパンマンの 「タッチでひかる! おしゃべりかいさつき」と「アンパンマンれっしゃとなかまたち」です。お子さんが大好きな、かいさつきの”ピッ!” が何度もできちゃう夢のふろくです。ポスターとアンパンマン列車もついてるから、遊びがどんどんふくらみます!

「ベビーブック8・9月号」 価格:1590円

この記事は小学館「ベビーブック8・9月号」の内容を掲載しています

子どもの健康・発達:新着記事